莞爾にこり)” の例文
父様も建てるか坊も建てたぞ、これ見て呉れ、とも勇ましく障子を明けて褒められたさが一杯に罪無く莞爾にこりと笑ひながら、指さし示す塔の模形まねかた
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「そう。」と言いかけて莞爾にこりとせしが、見物は皆舞台を向いたり。人知れずこそ、また一ツ、ここにも野衾居たりしよ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お朝も盆芝居から照之助を大変に褒めていることを知っていますから、わたくしも笑いながら斯う云ったのですが、お朝は莞爾にこりともしませんでした。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ですからその三度伺ったマジャルドー氏というのは私だったのです」と莞爾にこりともせずに探偵は言った。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
奥様は世に嬉しげに莞爾にこり御笑ひ遊ばしてネ、先生、私は今もの時の御顔が目にアリ/\と見えるのです、其れから今度は梅子をと仰つしやいますからネ、頑是ぐわんぜない三歳みつの春の御嬢様を
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
法水は莞爾にこりとして、一・二・五の下に——ダッシュを引いて解答と書き、もし万に一つの幸い吾にあらば、犯人を指摘する人物を発見するやも知れず(第二あるいは第三の事件)——と続いてしたためた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
みや子は莞爾にこりともせず、声を低めて熱心に囁いた。
伊太利亜の古陶 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
老夫莞爾にこりとしてふたゝびさらんとす。
……如何いかがはしいが、生霊いきりょうふだの立つた就中なかんずく小さなまと吹当ふきあてると、床板ゆかいたがぐわらりと転覆ひっくりかえつて、大松蕈おおまつたけを抱いた緋のふんどしのおかめが、とんぼ返りをして莞爾にこり飛出とびだす、途端に
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お亀は莞爾にこりともしないで、相手の顔をじっと見つめていた。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひょうの降ることすさまじく、かつは電光のうちに、清げなる婦人一にん、同所、鳥博士の新墓の前にたたずみ候が、冷く莞爾にこりといたし候とともに、手の壺微塵みじんに砕け、一塊の鮮血、あら土にしぶき流れ
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
莞爾にこりとその時、女が笑った唇が、縹色はなだいろに真青に見えて、目の前へ——あの近頃の友染向ゆうぜんむきにはありましょう、雁来紅はげいとうを肩から染めた——釣り下げた長襦袢ながじゅばんの、宙にふらふらとかかった、その真中へ
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言懸けて、お兼は、銀煙管ぎんぎせるを抜くと、逆に取って、欄干の木の目を割って、吸口の輪を横に並べて、三つした。そのまま筒に入れて帯に差し、呆れて見惚みとれている滝太郎を見て、莞爾にこりとして
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「嬉しいねえ。」と莞爾にこりとして
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)