あら)” の例文
旧字:
あらゆるものを焼き、総ゆるものを灰にするような、令嬢に対する私の愛情は、博士に対する恐怖感をさえ乗越えて行った。
彼はその一個の意志で、あらゆる心の暗さを明るさに感覚しようと努力し始めた。もう彼にとって、長い間の虚無は、一睡の夢のように吹き飛んだ。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
この愛魚家は当時において、ほとんど狂想きょうそうにも等しい、金魚のあらゆる種類の長所をあつめた理想の新魚を創成しようと、大掛りな設備で取りかかった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
で、職業としての目的を達し得た点において、あらゆる職業は平等で、優劣なぞのある道理はない。う云う意味で言えば。車夫も大工も同じく優劣はない訳である。
職員は待遇が差別されていて幾分か増額されているけれども男子労務者と婦人労務者との間にある殆ど二対一のひらきはあらゆる生産場面の男女差別待遇としてあらわれている。
今日の日本の文化問題 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
かれが蒐集しゅうしゅうしたところのあらゆる婦人雑誌や活動写真の絵葉書、ことにいまわしげな桃色をした紙の種類、それからタオルや石鹸や石鹸入れなどが、みんな押入れのなかにしまわれてあった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
あらゆる人種からなる、十三万人の観衆に包まれた開会式オオプニングセレモニイは、南カルホルニアの晴れわたった群青ぐんじょうの空に、数百羽の白鳩しろばとをはなち、その白いかげが点々と、碧玻璃へきはりのような空に消えて行くころ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「無論、あらゆる事が原始に復らんきア駄目だ。」と叫んだ。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
………………あらゆる罪悪一に皇帝の名を仮りて弁疎……
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あらゆるものの、醜悪と腐敗の燐光を放つてゐる。
しかも、それは、文学に於けるいかなる分野が、素質が、属性が、あらゆる文学の方向から共通に考察されねばならないか。これがわれわれの新しい問題となるべきであろう。
世の中に存在する所のあらゆる職業は、其職業に依って、其職業のぬしが食って行かれると云うことを証明して居る。すなわち、食って行かれないものなら、それは職業として存在し得られない。
ナポレオンの田虫は頑癬がんせんの一種であった。それはあらゆる皮膚病の中で、最も頑強がんきょうかゆさを与えて輪郭的に拡がる性質をもっていた。けば花弁を踏みにじったような汁が出た。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)