素見ひやか)” の例文
軒なみにつづいてゐる古本屋を一軒一軒素見ひやかして宗教物ばかりをあつめてゐたころで、中中よみたいものが見つからなかつたのです。
ザボンの実る木のもとに (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
もしあまり早く行き着いたら、一通り夜店でも素見ひやかして、よくの皮で硬く張った小林の予期を、もう少しらしてやろうとまで思案した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
品川の貸座敷などを素見ひやかすのもありましたが、その頃はどこでも外国人を客にしません。料理屋でも大抵のうちでは断わる。
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
浅草の、大音寺前だいおんじまえという吉原に近いところで荒物店あらものやを出すとかいうから、そのうちに吉原を素見ひやかしながら、あの辺を通って見ようといったりして
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
余はこゝに至り初て目科がいつもより着飾きかざりたる訳を知れり、彼はく藻西が家の近辺にて買物を素見ひやかしながら店の者に藻西の平生へいぜいの行いを聞集めんと思えるなり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
自分の母の亡なつたのは、六月の七日で、村の若い衆たちが、娘のある家をつぎ/\へ、張店を素見ひやかすやうにして歩き𢌞るには、おひ/\と好い時候であつた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
誰れが言出したか一ツ祇園を素見ひやかさうと、大利さんは殿様に化けて籠にのり、白峰さんがお小姓役、龍馬は八卦見、ソレから私が御腰元で、祇園の茶屋へ押し掛け
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
「総曲輪へ出て素見ひやかそうか。まあ来いあそこの小間物屋の女房にも、ちょいと印が付いておるじゃ。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
諸方ほうぼう店頭みせさきにはたっ素見ひやかしている人々もある。こういう向の雑書を猟ることは、もっとも、相川の目的ではなかったが、ある店の前に立って見渡しているうちに、不図眼に付いたものがあった。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日本の着物が気に入って、大島おおしまそろいの着物と羽織とを作って時々着ていた。特に浴衣ゆかたが好きで、夏になると、よく浴衣がけで素足すあしに下駄をひっかけて、神楽坂の夜店を素見ひやかしていたものである。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
いつぞや小勝わたくしが牛込の夜見世を素見ひやかしたら、あッたから見ると、団扇は団扇だが渋団扇でげす、落語家がすててこを踊ッている絵が描いてあるから、いくらだと聴きましたら、値段ねだんがわずかに八厘
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
軒下づたいに妓楼を素見ひやかして歩いている人々は、綱手をのぞいて
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
桑田は唯素見ひやかあるくよりしやうがない。
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
ここもさっぱりと素見ひやかして通った。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
講釈師がよく饒舌しゃべる、天保水滸伝てんぽうすいこでん中、笹川方の鬼剣士、平手造酒猛虎ひらてみきたけとらが、小塚原こづかっぱらで切取って、袖口に隠して、千住こつの小格子を素見ひやかした、内から握って引張ひっぱると、すぽんと抜ける
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目科は此店の女主人じょしゅじんに向い有らゆる形の傘を出させそれいけぬ是も気に叶わずとて半時間ほども素見ひやかしたる末、ついに明朝見本を届くる故其見本通りあらたに作り貰う事にせんと云いて、此店を起出たちいでたり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
さんざん素見ひやかした揚句、二人の外国人はそこを離れて行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「無理はないよ、殿様は貸本屋を素見ひやかしたんじゃない。——見合の気だ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六七軒八九軒およそ十軒ほど素見ひやかし廻りたる末
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
らないものを、何だって価を聞くんだ。素見ひやかすのかい、お前は、」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)