ぷん)” の例文
大なすきを打込んで、身を横にしてたおれるばかりに土の塊を鋤起す。気の遠くなるような黒土の臭気においぷんとして、鼻を衝くのでした。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
といいながら、ついったから、何をるのかと思ったら、ツカツカと私の前へ来てひたと向合った。前髪があごに触れそうだ。ぷんにおいが鼻を衝く。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
竜之助は、また首垂うなだれて酒を飲み出す。怖ろしさから傍へ寄ったお松の化粧けしょうの香りがぷんとしてその酒の中に散る。
其手袋を鼻の先へ押当てゝ、ぷんとした湿気しけくさい臭気にほひを嗅いで見ると、急に過去すぎさつた天長節のことが丑松の胸の中に浮んで来る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
疲れのせいか横になって、うつらうつらと眼を閉じていると、暫くしてぷんと鼻をつ酒の香りがしました。それはあまりに芳烈な清酒の香りであります。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うち見窄みすぼらしかったが、主人も襟垢えりあかの附た、近く寄ったら悪臭わるぐさにおいぷんとしそうな、銘仙めいせんか何かの衣服きもので、銀縁眼鏡ぎんぶちめがねで、汚いひげ処斑ところまだらに生えた、土気色をした、一寸ちょっと見れば病人のような、陰気な
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
気の遠くなるような黒土の臭気においぷんとして、鼻をくのでした……板橋村を離れて、旅人の群にも逢いました。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
兵馬も面を突き出して福松の耳に口をつけようとすると、ぷんとして白粉の匂いが鼻を打ちました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その時に、お銀様の鼻に触れたのはぷんとしてなまぐさい、いやないやな臭いであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それさへあるに、土気の襄上のぼ臭気にほひぷんと鼻をいて、堪へ難い思をさせるのであつた。次第に葬られて、小山の形の土饅頭が其処に出来上るまで、丑松は考深く眺め入つた。叔父も無言であつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
戸をあけて一歩外へ出ると、ぷんとして血の香いが鼻をちます。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ぷんとして立ちのぼる香りは椿油の香いであります。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)