うかご)” の例文
そういうときは、やはり散歩する人のようにゆっくりと歩いて見せて、人が通って行ってしまうと、いそいで私は玄関の内部をうかごうた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一体、何家どこを捜す? いやさ捜さずともだが、仮にだ。いやさ、しちくどう云う事はない、何で俺が門をうかごうた。唐突だしぬけに窓をのぞいたんだい。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お察しのとおりでござりまする。かねてから、いつかはと、折をうかごうておりましたが、もう一日もゆるがせならぬことも降ッて湧きましたので」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにつけても肥後守ひごのかみは、——会津中将は、あおい御一門切っての天晴あっぱれな公達きんだちのう! 御三家ですらもが薩長の鼻息うかごうて、江戸追討軍の御先棒となるきのう今日じゃ。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
此方こなたは例の早四郎が待ちに待った今宵こよいと、人の寝静ねしずまるをうかごうてお竹の座敷へやって参り
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そんなりでかめへんいうたんやけど、浴衣ゆかたがけでは失礼やいいなさって、着物着かえてなさったのんで、……」と、そないいいながら夫の様子うかごうてますと、かばん傍に置いて
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
藤原から池上まで、おひろいでお出でになりました。小高いしばの一むらある中から、御様子をうかごうて帰ろうとなされました。其時ちらりと、かのお人の、最期に近いお目に止りました。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「やはりそうか。……やれまた、心もとないぞ。十郎、殿の様子をうかごうて来い。模様によっては、直義もすぐまいる」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にも関わらず疑いぶかく足音の消えた時分に襖のそとへ出て、階段の方をそっとうかごうた。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
少年はの上へ両手を真直まっすぐかざし、ななめに媼の胸のあたりをうかごうて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
最前から森下の植込うえごみの蔭に腕を組んで様子をうかごうて居るのはの遠山權六で、さきに松蔭の家来有助を取って押えたが、松蔭がお羽振がいので、事を問糺といたゞさず、無闇に人を引括ひっくゝり、かみへ手数を掛け
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『お止めなされ……』と木工助家貞は、顔をしわめて横に振った。『——場所が悪うござりまする。内親王さまのお住居を、うかごうたなどと聞こえては』
うかごうていたまでじゃ
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)