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稍々
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やう/\
遣はされし處
悴忠助は
稍々今年十一歳なる
故伯父長兵衞は
名代として江戸へ
赴かんと
調度を
成金兵衞方に幼少より
召使ひし直八と云者
萬事に
怜悧なるに付き之れを
召連鴻の巣を
潰し
夫は又何事なるやと
惘れ
居たり一
體此吉五郎と云者は
極正直にて人のよき
事竟に一度も人と
物爭ひなどしたる
試しなく町方住居の者には
稀なる故皆々近所にても
佛吉々々と
渾名なす程の者なれば今御奉行樣が
直の
御調べと聞て
暫時無言なりしが
稍々震へ聲を
如夜叉と思ひ込し
最物堅き長三郎も
流石木竹に非れば此時
初て
戀風の
襟元よりして
慄と
染み娘も見たる其人は本町
業平俳優息子と
綽名の有は知らざれど
比ひ
稀なる美男なれば是さへ茲に
戀染めて斯いふ男が又有らうか
斯いふ女が又有らうかと
互に
恍惚茫然と
霎時言葉もあらざりしが
稍々にして
兩個が
心附ては
羞は