私怨しえん)” の例文
「いや、いや、私怨しえんではありません。大きな公憤です。義憤です。万民の呪いと共に憂国の怒りをもって、彼を憎み止まぬ一人です」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やつらは私怨しえんでわたしに復讐しようとしてるんです。それはやつらが馬鹿だものだから、ちゃんと自分で白状してますよ……さあ、ちょっとごめんなさい!
御狩場は戦場と同様である、殿の御馬前で私怨しえんの争いなど起こせば軍律干犯になる、どんなに堪忍ならぬことがあっても、御狩場では断じて事を起こしてはならない。
四日のあやめ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また、なにかその家あるいはその持ち主に遺恨、私怨しえんあるために、ことさらに作為して化け物屋敷などと言い触らすことがある。これはいわゆる偽怪と申すものじゃ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
大袈裟おおげさな言いかたをすれば、私はいつでも、「人間歴史の実相」を、天に報告しているのだ。私怨しえんでは無いのだ。けれども、そう言うとまた、人は笑って私を信じない。
作家の像 (新字新仮名) / 太宰治(著)
間接的な法律の力にたよるほかは、私怨しえんをはらす方法が、絶対になくなってしまったのだからね。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私裁のもっともはなはだしくして、まつりごとを害するのもっとも大なるものは暗殺なり。古来暗殺の事跡を見るに、あるいは私怨しえんのためにする者あり、あるいは銭を奪わんがためにする者あり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
卑属親ひぞくしんの敵——例えば子の敵、弟の敵などを討つのは、武士としてはことごとく恥じたもので、どの藩もそんなものには決して助力も、便宜も与えないばかりでなく、それは私怨しえんとして取扱われ
儒者じゅしゃと違って、先王の価値にも歴史家的な割引をすることを知っていた彼は、後王たる武帝の評価の上にも、私怨しえんのために狂いを来たさせることはなかった。なんといっても武帝は大君主である。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
両人は私怨しえんさしはさみ、果合はたしあいを約したという風聞だ、その虚実は今は問わぬが、只今の御家のていを拝したら、それどころではあるまい、くだらぬ騒ぎをして不忠を働くな、それよりは主君の御憤りを
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
だが、後白河法皇も、新大納言の私怨しえんにひとしいたくらみにお心が傾いているというのは、彼として、自身以上の危惧きぐであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
君は僕に何か私怨しえんでもあるのですか。僕が解決した事件を、なぜぶちこわそうとするのです。しかし、お気の毒だが、君の云い草は支離滅裂、まるで気違いのたわごとじゃないか。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やったら名のって出なければならない、私怨しえんだと云って自首して出れば、罪はその一人に限られるし、仙台も干渉することはできないだろう、おれはこんな不具になってほかの役には立たないが、この役なら間違いなくやってみせる、これはおれの役だ
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
信西入道にたいし、ふかき私怨しえんをもち、公憤と私的感情が一つになって「いつかは」と、時をうかがっていたものでした。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つ 親王の御罰ぎょばつは、ひとえに宮のおごりをこらす聖衷せいちゅうに存するを、私怨しえんをふくんで、これを囹圄れいごゆうす。罪の七。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやしくも、成政は、人でおざれば、犬との交際つきあいには、事ごとに、蔑視べっしをくれておるにはおるが——このたび徳川どのへ申し入れた一儀いちぎは決して私怨しえんなどではない、公憤でござる
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、そなたはも早や、元服げんぷくの若者である。一にんまえ武士もののふとなるべきだ。いつまで小さな私怨しえんにとらわれているばかりがまこと武士もののふでもなかろう。まなこをひろい世の中にみひらいてたもれ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)