破鍋われなべ)” の例文
ただ吹雪に怪飛けしとんで、亡者のごとく、ふらふらと内へ戻ると、媼巫女うばみこは、台所の筵敷むしろじき居敷いしかり、出刃庖丁をドギドギと研いでいて、納戸の炉に火が燃えて、破鍋われなべのかかったのが
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
及ばぬ恋の無駄ながふもやすよりは、妄想をデツチ上げた恋愛小説でも作つて、破鍋われなべにトヂ蓋の下宿屋の炊婦おさんでもねらつたらからう。はツはツ、顔を赤くするナ。怒る。怒る勿。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
それについちゃんに相談とうと思っていたが、わしだって今年二十五に成るで、何日いつまで早四郎はやしろう独身ひとりで居ては宜くねえ何様どんな者でも破鍋われなべ綴葢とじぶたというから、早く女房を持てと友達が云ってくれるだ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あぶない、たな破鍋われなべちかゝるごとく、あまつさへべた/\とくづれて、薄汚うすよごれた紀州きしうネルをひざから溢出はみださせたまゝ、……あゝ……あゝつた!……男振をとこぶり音羽屋おとはや特註とくちう五代目ごだいめ)の意氣いき
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、何の禁厭まじないか知れぬまで、鉄釘かなくぎ鉄火箸かなひばし錆刀さびがたなや、破鍋われなべの尻まで持込むわ。まだしもよ。お供物だと血迷っての、犬の首、猫の頭、目をき、ひげを動かし、舌をべらべら吐く奴を供えるわ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)