まっ)” の例文
旧字:
表に、御泊りとかいた字の、その影法師のように、町幅のまっただ中とも思う処に、曳棄ひきすてたらしい荷車が一台、屋台を乗せてガタリとある。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ごろた石の敷かれたまっすぐな道が、何処までも私達を引張って行く。木蔭が少ない上に風が無いので堪らなく暑い。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
何十本かの手が夢中でそれをつかんだ。これで引綱が完全につけられたわけだ。鼻づらは、まっすぐ落ちても差支さしつかえのない場所へ静かに引きよせられた。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
科学者は説明書の束と、セルロイド製の鵜烏の入ったボール箱とを小脇にかかえると猛然として夜店の人波をつき崩し、まっしぐらに下宿の自室へとび込んだ。
科学者と夜店商人 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
小さな中学生達の航海は、大通おおどおりまっすぐに歩くことよりも、人の知らないような航路をとる方が面白いに違いないと思われました。それで、二人はそうしました。
殆どまっぱだかの瑠璃子が、腐りただれた赤ん坊の死骸を抱いて、くずれる様な笑顔でその赤ん坊をあやしながら、腰を振り振り、右に左に歩いていたではないか。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
避難ひなん列車の中でろくろく物も言わなかった。やっと梅田の駅に着くと、まっすぐ上塩町かみしおまちの種吉の家へ行った。途々みちみち、電信柱に関東大震災の号外が生々しくられていた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
鹽原夫婦も見送り/\、泣く/\帰りかゝりますと、向うからわい/\という声で大勢たいぜい駈けて来る其の先へ、まっしぐらに駆けて来たのは青馬あおうまで、荒れに荒れてトッ/\と来ます。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
座長がまっさきにのりかゝつて、ぎよつとした。三艘さんぞうのうちの、一番大形おおがたに見える真中の船であつた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
村へ、はじめて女神像じょしんぞうを据えたのは、あの草団子のまわり縁で。……その家の吉之助というのの女房、すなわち女神の妹は、勿論、あねが遭難の時、まっさきに跣足はだしけつけたそうですが
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ののしるか、笑うか、一つ大声が響いたと思うと、あの長靴なのが、つかつかと進んで、半月がたの講壇に上って、ツと身を一方に開くと、一人、まっすぐに進んで、正面の黒板へ白墨チョオクを手にして
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少年が正しく立停たちとどまって、畳んだ用紙をまっすぐに
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)