相宿あいやど)” の例文
しかし実を申せば拙者には隠れたる罪がある。若いときに旅をしてある宿屋に泊ると、相宿あいやどの山伏が何かの話からその太刀をぬいて見せた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相宿あいやどのものがそれぞれかせぎに出た跡で、宇平は九郎右衛門の前にひざを進めて、何か言い出しそうにして又黙ってしまった。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
吉「今、わしどもが喰った弁当は宿屋から呉れましたか、それとも小頭こがしらか、いやさ相宿あいやどの者がくれたのですか」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「実は、おせっかいだが、わしの教えた事だ。今市へ泊った晩に、相宿あいやどの者からひょいと聞き込んだので」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼方此方あっちこっちマゴマゴして、小倉じゅう、宿をさがしたが、何処どこでも泊めない。ヤット一軒泊めてれた所が薄汚ない宿屋で、相宿あいやど同間どうまに人が寝て居る。スルト夜半よなか枕辺まくらもとで小便する音がする。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「そんなら、ここへお泊りなさい、お相宿あいやどを致しましょう」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一つ、相宿あいやどということに、お願い致しとう存じますが——
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
実はお部屋がもう御座いませんので、相宿あいやど
I駅の一夜 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
新太郎君は今度は用心深く相宿あいやどを確めたが
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「こんでいるので相宿あいやどにしてください」
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
猫のひたえのようなうちだが売って、其の金子を路用として日光辺の知己しるべを頼ってく途中、幸手の宿屋で相宿あいやど旅人りょじんが熱病で悩むとて療治を頼まれ、其の脉を取れば運よく全快したが
それは木賃きちん同様の貧しい宿屋に泊まった時のことで、相宿あいやどの女が親切に看病してくれた。女はかのおころで、同商売といい、女同士といい、その親切に油断して、管狐の秘密をおころに話した。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
竹「わたくしはお相宿あいやどになりまして、き隣に居りますが、あなた様は最前おつきの御様子で」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その時かの李香が相宿あいやどのよしみで親切に看病してくれたので、彼は死にぎわに自分の秘密を残らず懺悔ざんげして、自分は罪のふかい身の上であるから、こうして穏かに死ぬことが出来れば仕合せである。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お竹は過越すぎこし方を種々思うにつけ心細くなりました、これが胸に詰ってしゃくとなり、折々差込みますのを宗達が介抱いたします、相宿あいやどの者も雪のために出立する事が出来ませんから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)