目守まも)” の例文
純一はこんな事を気に掛けて、明りのさしている障子を目守まもっている。今にも岡村の席をって帰る影が映りはしないかと待つのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
我わがあたりをみれば、わが動く處、わが向ふ處、わが目守まもる處すべてあらたなる苛責あらたなる苛責を受くる者ならぬはなし 四—六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
由縁なき人とはわれかと、姫の手首とりてさゝやくに、暫しあらぬ方打ち目守まもりてありしが、その面には憂の影消え去りて、微笑の波起りぬ。
我々は只いつ迄も死骸を目守まもつてゐる。そのうち我々一同の中に同時に恐るべき、非常な疑惑が生じて来た。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
三笠老探偵は、眼鏡の奥の細めた目で、いつまでも美しい珠子を目守まもっている。目守りながら、なぜか、彼の鬚に隠れた唇が、ニッと三日月型に微笑しているかに感じられた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
秋山のしぐるるゆふべ土に入る君がなきがら目守まもりつつ立つ十一月十五日
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
母と来て佇み目守まもる日のたむろ子等が遊びのいつはつるなし
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あさりする丹頂の前にしまらくは目守まもりたりけり心すがしく
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
目守まもっていて、そこ、ここで何事があるとか、9200
高々たかだかと山のうへより目守まもるとき天草あまくさなだ雲とぢにけり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
礼助は豹変へうへんした兄を呆然ばうぜん目守まもつた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
我はこのことばを聞きて目をめぐらし、彼等のあやしみてわれひとり、ただわれひとりと、碎けし光とを目守まもるをみたり 七—九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
舟は深碧の水もてめぐらされたる高き岩窟いはやに近づきぬ。ジエンナロは杖をふるひて舷側の水を打てり。われは且怒り且悲みて、傍より其面を打ち目守まもりぬ。
髪を櫛巻くしまきにした小さい頭の下に太った顔の附いているのが、いかにも不釣合である。そしてその顔が不遠慮に、さも驚いたように、お玉を目守まもっている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
ふみづかひ——それも恋路のうけあゆみ、へか——目守まもれば
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そはいたづらにおん身を惱ますに近からんと云ひつゝ、起ちて帽を取らんとせしに、夫人は忽ち我手をりて再び椅子に着かしめ、優しく我顏を目守まもりて云ふやう。
と誰やらが云ったばかりで、って出迎えようともしない。男も女も熱心に病人を目守まもっているらしい。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
え白らみたる鳥屋とやの外に交接つがへるとりをうち目守まもる。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)