申出もうしい)” の例文
国枝氏は突飛とっぴ千万なこの申出もうしいでを、真面目に受取る気にはならなかったけれど、殿村の熱心な勧めを退ける理由もなかった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
春の山——と、優に大きく、申出もうしいでるほどの事ではない。われら式のぶらぶらあるき、彼岸ひがんもはやくすぎた、四月上旬の田畝路たんぼみちは、とのぼせるほどあたたかい。
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かくて一方には造船所の計画けいかくると同時に、一方においてさらにロセツより申出もうしいでたるその言にいわく、日本国中には将軍殿下しょうぐんでんか御領地ごりょうちも少からざることならん
何故なぜ今日となって左様な事を申出もうしいでたか、いたずらに上をもてあそぶに於ては其のぶんには捨置かんぞ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かねての彼の申出もうしいでらしかったが、葉子は文壇に乗り出す手段としてこそ、そうしたペトロンも必要だったが、そこまで附いて行けるかどうかは彼女自身にも解っていなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今日こそうんと近くへ寄って、あの皮膚をしみじみと見られる、もちろん触ってみることも出来る。そう考えただけでも私は、とても彼女の申出もうしいでを断る勇気はありませんでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何時いつ幾日いくかには遊びに行かんと親しき友より軽き約束申出もうしいでられてももしやその日に腹痛まば如何いかにせん、雨降らばにくからんなぞ取越苦労のみ重れば折角のきょうもとく消えがちなるこそ悲しけれ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それはなにか気懸きがかりな話ではあったが、そういう申出もうしいでには愛情のおもいりがこうのようににおうてくるようでもあった。筒井はいつでも、そんなふうに申し出ることですぐれているものを持っていた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ラック大将は、自分の一存で、かの骸骨旗軍に、降服を申出もうしいでた。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勇は伯爵に、こんな事を申出もうしいでます。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
川手氏は、木島助手の変死のくやみを述べ、遺族に対して出来るだけのことをしたいと申出もうしいで、博士の方では、この重大事件を、助手任せにして置いた手落ちをびた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
麗子は、池の赤インキをガブガブ飲んで、息も絶え絶えに、残虐遊戯の中止を申出もうしいでた。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして殆ど犯人をつき止めたのですが、ただ一つ死体の仕末しまつが分らないために、その筋に申出もうしいでることを控えていた訳でした。それが今のお話しですっかり分った様な気がします
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
布引氏は賊の申出もうしいでに従って、警察に届出とどけいでるのは見合せることにした。こういう場合に、賊の申出にさからって、飛んでもない結果をひき起した例を、屡々しばしば耳にしていたからだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なげき悲しんで呉れたのだが、やがて初七日しょなのかも済んだとき、彼女の方から解職を申出もうしいでたので、相川操一氏は、丁度珠子の学校友達の、あるお嬢さんの家から話があったのを幸い、殿村未亡人を
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大使の御来遊延期を申出もうしいでたけれど、ルージェール伯は、欧洲大戦にも参加され、シャンパーニュの激戦では、一時戦死を伝えられた程の勇士ゆえ、可愛らしい日本人の盗賊など、物の数とも思召さず
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はハッハッと息を切らしながら、解雇を申出もうしいでた。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)