生殺なまごろ)” の例文
こいつと見こんだら決してのがさない——ぶりついてもあいてを屈伏させる——また、生殺なまごろしにはしておかない、徹底的に、やるまでやる。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの場合、ゆき子の感情を生殺なまごろしのまゝでやり過した、自分の疲れかたは、只事ではないやうな気もして来る。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「こんなにスローモーションではたまりません。へび生殺なまごろしというものです。それというのも、お雪さんの心がぐらついているからです。わたしは死にます。」
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一方を無事に死なしておいて、一方を助けて生かしておくのは、蛇の生殺なまごろしより、もっとむごいことである。
いよいよむねわるくくらしくおもひ、しかるべきえんにもつけず生殺なまごろしにして、他處目よそめばかりは何處どこまでも我儘わがまヽらしき氣隨きずゐものにて、其長そのながした父君ちヽぎみをもみしか
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
求めるこころも愛憎も、人に負けまい、勝負のこころも、みんな生殺なまごろしのままで残されてゐるではないか。身体が、周囲が、もう、それをさせなくなつてしまつたまでだ。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「蛇の生殺なまごろしということがありますが、蛙の生殺しということは聞きません」
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
食すべき「たのみ」のえさがないから、蛇奴も餓死うえじにに死んでしまいもしようが、なまじいの花くだし五月雨さみだれのふるでもなくふらぬでもなく、生殺なまごろしにされるだけに蛇奴も苦しさに堪えねてか
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
だって、このままじゃ、へび生殺なまごろしみたいで、気が落着かないじゃないか
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つまり一すんだめし五だめし、蛇の生殺なまごろしに類する、比類なき残虐だ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それなのに、いちどの喚問さえなく、おれを生殺なまごろしにしておくこの処置は、いったいどういう幕府のはらなのか。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生殺なまごろし……また息を吹き返して、二重の生恥をさらすようなことはございますまいね」
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのこともなく、殿が、御出仕あれば、ちょうを示され、公卿輩くげばらが、そねみ出すと、見えすいた陰謀も、知らぬお顔というのでは、殿が、生殺なまごろしというものだぞやい
それは蟻が一生懸命で生殺なまごろしのあぶに取りついているように、ズルズルと引張っては、またはなしてしまい、また引張っては離れ、離れては引張り、引張っているうちに自分の腰が砕け
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)