物腰ものごし)” の例文
まる取巻とりまいたなかから、ひょっこりくびだけべて、如何いかにもはばかった物腰ものごしの、ひざしたまでさげたのは、五十がらみのぼて魚屋さかなやだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
又その素振そぶりや物腰ものごしには何かしら相手の好意と知遇におもねるようなところがある。彼が笑うととてもチャーミングで、髪は薄色で、眼は蒼かった。
十八九の青年が現われて来て、竜之助を見る、その物腰ものごしが武術家仕込みらしく、竜之助の風采ふうさいに多少の怪しみの色はあってもあなどりの気色けしきが乏しいから
それを全く気づきもしないような物腰ものごしで、葉子は親しげに青年と肩を並べて、しずしずと歩きながら、車夫の届けた包み物の中には何があるかあててみろとか
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
優容しとやか物腰ものごし大概たいがいつぼみからきかかったまで、花のを伝えたから、跛も、めっかちも聞いたであろうに、はしたなく笑いもせなんだ、つつましやかな人柄ひとがらである。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぜ博士が急にこう物腰ものごしがひくくなったかについて、もっと深く考えることをしなかったのだ。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こういう町の姿、人の物腰ものごしの中に、モースは、一種の美しさを認め、人間としての温かい感情をみとったようである。そして日本の国と国民とに深い愛情を抱いたのである。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
物腰ものごし恰好かっこう老成人ろうせいじんめいて、厭に落ちついているから、私は最初の間、この男が嫌いだった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
『江戸者のようだな、言葉や物腰ものごしが……』
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)