燐寸まっち)” の例文
何しろ、其奴そいつの正体を見届けようと思って、講師は燐寸まっち擦付すりつけると、対手あいてにわかに刃物をほうり出して、両手で顔を隠してしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
余は何時いつとも無く不審を起し目科とはも何者にやと疑いたり、もとより室と室、隣同士の事とて或は燐寸まっちを貸し或は小刀ないふを借るぐらいの交際つきあいは有り
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
暗いのに軒灯けんとうのない家が並んでいるので、燐寸まっちをすっていちいち表札の文字をすかしすかし、探さねばならなかった。
夏の夜の冒険 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
乃至ないしはまた燐寸まっちの商標だとか、物はいろいろかわっていても、赤い色が見えるのは、いつでも変りがありません。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……ウチのとっさんは、平生いつもから小型ちいさな、鱶捕ふかどりの短導火線弾ハヤクチを四ツ五ツと、舶来の器械燐寸まっち準備よういしていた。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼等は燐寸まっちをすって賊の残した衣類を調べた。そこには書類も紙入かみいれもなく、ただ一ツ一枚の名刺があった。そこには怪賊アルセーヌ・ルパンの名が記されてあった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
熊肉を煮込んで、それを燐寸まっちの小箱ほどの大きさに切り、それに濃い香羹こうかんがかけてある。
香熊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
燐寸まっちこすって、そこで彼は、その火の輪のむこうから僕の顔に驚いた。
もし山𤢖やまわろか。」と、市郎は咄嗟とっさに思い付いた。で、その正体を見定める為に、たもとから燐寸まっち把出とりだして、慌てて二三本った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ハイ今開ますと返事して手燭をつけるとか燐寸まっちを探すとかに紛らせて男を逃します逃した上で無ければ決して旦那を入れません(荻)それそうだ、ハテナ外妾かこいもので無し
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
老紳士は黙って頷きながら、燐寸まっちをすってパイプに火をつけた。西洋人じみた顔が、下から赤い火に照らされると、濃い煙がまばらな鬚をかすめて、埃及エジプトの匂をぷんとさせる。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
父の行方とお杉の安否とを探る為に、市郎は直ちにの冒険を試みようと決心した。彼は燐寸まっちって再び蝋燭に火をけた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)