無御座ござなく)” の例文
昔より信仰厚き人達は、うつつ神仏かみほとけ御姿おんすがたをもをがみ候やうに申候へば、私とても此の一念の力ならば、決してかなはぬ願にも無御座ござなく存参ぞんじまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
取り万事はなはだものうく去年彩牋堂竣成しゅんせい祝宴の折御話有之候薗八節そのはちぶし新曲の文章も今以てそのまゝ筆つくることあたはず折角の御厚意無にいたし候不才の罪御詫おわび致方いたしかた無御座ござなく候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私店けしいり軽焼の義は世上一流被為有あらせられ御座候とおり疱瘡はしか諸病症いみもの決して無御座ござなく候に付享和三亥年いどしはしか流行の節は御用込合こみあい順番札にて差上候儀は全く無類和かに製し上候故御先々様にてかるかるやきまたは水の泡の如く口中にて消候ゆゑあは
生死のほども如何いかが相なり候と、恐る/\のぞき申候に、崖はなか/\険岨けんそにて、大木たいぼくよこざまに茂り立ち候間より広々としたる墓場見え候のみにて、一向に人影も無御座ござなく候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私事むなしく相成候とも、決しての病にては無之これなく御前様おんまへさま御事おんこと思死おもひじに死候しにさふらふものと、何卒なにとぞ々々御愍おんあはれ被下くだされ其段そのだんはゆめゆめいつはりにては無御座ござなく、みづから堅く信じ居候事に御座候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
吾身わがみならぬ者は、如何いかなる人もみな可羨うらやましく、朝夕の雀鴉すずめからす、庭の木草に至るまで、それぞれにさいはひならぬは無御座ござなく、世の光に遠き囹圄ひとやつなが候悪人さふらふあくにんにても、罪ゆり候日さふらふひたのしみ有之候これありさふらふものを
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
但し軽々しく口外致すべき事には無御座ござなくあいだこれまたそのまゝに致し、唯たゞ時節の来るを待ちをり申候処、或日の事、当村の庄屋殿しょうやどのより即刻代官所へ同道致されたきおもむき使つかいを以て申越され候間
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)