漆塗うるしぬり)” の例文
夕飯は、茶の間の涼しい広縁ひろえんで、大勢と一緒だった。漆塗うるしぬり餉台ちゃぶだいが馬鹿に広くて、鏡のように光っているのが、先ず次郎の眼についた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
漆塗うるしぬりの小箪笥があったり、竹の模様ある置物台。膳七重。高砂の翁媼図の縫取。書棚。香炉。屏風。大花瓶。太鼓など。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
手紙の反古を少し掻き退けて見ると、一方の隅には綺麗な漆塗うるしぬりの小箱がいくつもある。開けて見れば、中は皆からである。これは勲章の明箱あきばこであつた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
騎馬に召され、白地金襴きんらんの陣羽織に、具足は萌黄もえぎおどし革胴かわどうは真っ黒な漆塗うるしぬりはくを置き、長やかな太刀たちいて——
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例えばこいだとか菊水などは前者で、打出うちで木槌こづち扇子せんすの如きは後者の場合であります。煙で充分にくすぶり、これをよくきこみますから、まるで漆塗うるしぬりのように輝きます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「はい。ただ今御新造様ごしんぞさまももうお休みになるからと表の戸閉りをなすっていらっしゃいます。」と女は漆塗うるしぬりふたをした大きな湯呑ゆのみ象牙ぞうげはしを添えた菓子皿とを種彦の身近にすすめて
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二三分の後に通りとは反対の(ちょうどかれの方から正面に見えるところの)漆塗うるしぬりのドアに、一本の生白い手がすうとすべり出たかと思うと、ハンドルの把手につかまって逆にねじられた。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
漆塗うるしぬり、金の八角はちかくの台座には、本尊、文珠師利もんじゅしり、朱の獅子にしておわします。獅子のまなこ爛々らんらんとして、かっと真赤な口を開けた、青い毛の部厚な横顔がられるが、ずずッと足を挙げそうな構えである。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒い漆塗うるしぬりの便器。洗面器。清水桶。排水桶。ヒシャク一個。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
後者はよく「岐阜団扇」の名で通りました。漆塗うるしぬりの紙を用います。今に流行はやりませんが油団ゆとんも和紙のものとして忘れ難い品であります。何枚も紙を貼り合せ油または漆をひきます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この家がおもだって漆器しっきを作り出したことはこの界隈かいわいでは誰も知っている。今でもうるしの仕事部屋が続いている。しかしその近所近在に漆塗うるしぬりを業とする者が沢山いる。塗りばかりではない。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)