海端うみばた)” の例文
鼠色ねずみいろの空はどんよりとして、流るる雲もなんにもない。なかなか気が晴々せいせいしないから、一層いっそ海端うみばたへ行って見ようと思って、さて、ぶらぶら。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人は南の海端うみばたへ来ていて、すぐ向うの、一里も潮がひいたかと思える広い干潟ひがたに、貝を拾う人の姿があちらこちらに見えた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
曾良そらは師翁に随伴して加賀国にくる数日前、越後えちご市振いちぶりという海端うみばたの駅にとまって、測らずも二人の新潟の遊女と同宿した。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
安政あんせい末年まつねん、一人の若武士わかざむらいが品川から高輪たかなわ海端うみばたを通る。夜はつ過ぎ、ほかに人通りは無い。しば田町たまちの方から人魂ひとだまのやうな火がちゅうまようて来る。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
母「私は歩きたいから歩いてくが、おまえ寒くはないかえ、海端うみばただから風がピュー/\吹くから、いかえ」
お寺は海端うみばたにあった。松の木の根元で煙草を吸いつけていると、引揚げられた舟の蔭から一人の男が立現われて、貫一に火を貸してくれといった。その男を見て貫一はおどろいた。
鼠色ねずみいろそらはどんよりとして、ながるゝくもなんにもない。なか/\晴々せい/\しないから、一層いつそ海端うみばたつてようとおもつて、さて、ぶら/\。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
海端うみばたの朝は早く明けて、東海道の入口に往来の人影もだんだんに繁くなる頃まで、庄五郎も来ない、平七もみえないので、藤次郎も不思議に思った。
半七捕物帳:45 三つの声 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この混雑のなかを駈けぬけて、又次郎はまず海端うみばたの方角へ急いで行くと、途中で久助に逢った。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
屋根は低いのに揺れると来て、この前頭痛で懲々こりこりしたから、今度は歩行あるくつもりで、今朝小田原からたって来たが、陽気は暖かだし、海端うみばたの景色はし、結句暢気のんきで可い心持だ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まさかに貝を拾っているのでもあるめえ、海端うみばたへ出て何をしてやあがるかな」
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)