浮藻うきも)” の例文
それこそ宝物のように大事にしている。これが、僕の、最後の、たのみの綱だ。この思想にさえ見放されたら、僕は浮藻うきもだ。奴隷だ。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この頃になって浮藻うきもばかりか、桂子かつらこまでが小次郎を恋し、そのため妹と争いさえし、今夜に至っては、あのありさまであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やせたりや/\、病気揚句あげくを恋にせめられ、かなしみに絞られて、此身細々と心引立ひきたたず、浮藻うきも足をからむ泥沼どろぬま深水ふかみにはまり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし衣食のために活動しているのではない。娯楽のために活動している。胡蝶こちょうの花にたわむるるがごとく、浮藻うきもさざなみなびくがごとく、実用以上の活動を示している。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さいなまれしと見ゆるかたの髪は浮藻うきもの如く乱れて、着たるコートはしづくするばかり雨にれたり。その人は起上りさまに男の顔を見て、うれしや、可懐なつかしやと心もそらなる気色けしき
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
椿つばきが一輪、冷くて、燃えるようなのが、すっと浮いて来ると、……浮藻うきも——藻がまた綺麗なのです。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かえって少しの光や音や動きやは、その静かさの強みを一層強く思わせる。湿りを含んだランプの光の下に浮藻うきも的生活のわれわれは食事にかかる。佃煮つくだに煮豆にまめ漬菜つけなという常式じょうしきである。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
浮藻うきもこそひろごりわたれくろずみて
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
それは厳重に旅よそおいをした、飛天夜叉の桂子かつらこ浮藻うきもと小次郎と大蔵おおくらやつ右衛門と、風見の袈裟太郎と鶏娘とりむすめと、そうして幽霊女とであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
浮藻うきもには添ふ水の泡。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そうして谷川の岩の上では、裸体の浮藻うきもが髪をしぼりながら、情熱の歌をうたっていた。そうして水中では幽霊女と、鶏娘とりむすめとが水浴をつづけていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)