つゆ)” の例文
彼はその妻の常にたのしまざるゆゑつゆさとらず、始より唯その色を見て、打沈うちしづみたる生得うまれ独合点ひとりがてんして多く問はざるなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
つゆしらざれども其後更に二人の娘より一度の便たよりも無ければ案事あんじわづらひ或日長庵に向ひて申樣何卒姉娘のお文にも一度あはして下されと頼みければ流石さすがの長庵も當惑たうわく爲し挨拶あいさつこうはて口から出放題ではうだいの事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なかなか消えもやらで身に添ふ幻を形見にして、又何日いつかは必ずと念懸おもひかけつつ、雨にも風にも君が無事を祈りて、心はつゆも昔にかはらねど、君が恨を重ぬる宮はここに在り。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ながめ居るさまにもてなし肥前が目にとまりて心中にあやしと思はせん者とはかるとはつゆ知らざれば肥前は亭主ていしゆの彌次六に向ひたゞ今庭へ出給ふ御方は如何いかなる客人にや當人たゞびととは思はれずと云に彌次六は仕濟しすましたりと聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
又一方には貸倒かしだふれの損耗あるを思へば、所詮しよせんたふし、仆さるるはあきなひの習と、お峯はおのづかこころを強うして、この老女ろうによくるひを発せしを、夫のせるわざとはつゆも思ひよするにあらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)