のぞ)” の例文
われは心中にララをおもひサンタをおもひつゝ、月明かなる夜、渠水きよすゐのぞめる出窓の上に、美人の獨りたゝずめるさまを敍したり。
そうした水にのぞんで、仏岩ホトケイワという巨岩がそびえ、それに寄せてささやかな休み茶屋がある。壁にかかったいろいろな獣の皮が、主じの生業を物語っている。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
人家は皆山に架し溪にのぞみ、水の鳴ること佩環はいくわんの如く、全く別天地を其處に開いて見せるのであつた。
日光 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
都会の紅塵こうぢんを離れ、隅田の青流にのぞめる橋場の里、数寄すきらせる大洞利八おほほらりはちが別荘の奥二階、春寒き河風を金屏きんぺいさへぎり、銀燭の華光燦爛さんらんたる一室に、火炉をようして端坐せるは
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ながれめての方にて折れ、こなたのくが膝がしらの如く出でたるところに田舎家二、三軒ありて、真黒まくろなる粉ひき車の輪中空なかぞらそびえ、ゆんには水にのぞみてつき出したる高殿たかどの一間ひとまあり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
月光始めて渠水きよすゐに落つるころほひ、我は二女と市長の家の廣間なる、水にのぞめる出窓ある處に坐し居たり。
われはポツジヨと少女をとめに誘はれて、海にのぞめる小家に入りぬ。酒はうまし。友は善く談ぜり。誰かポツジヨが軽快なる辯と怡悦いえつの色とを見て、その厭世の客たるを知り得ん。