朱塗しゅぬ)” の例文
奪られたお弁当箱は、祖母が根負けして買ってくれた朱塗しゅぬりの三ツ重ねの、いさい丸いので、女中が持ってきて置いていったばかりのだった。
父は「何だそんな朱塗しゅぬりの文鎮ぶんちん見たいなもの。らないから早くそっちへ持って行け」と怒った昔を思い出した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは三輪みわやしろ大物主神おおものぬしのかみが、勢夜陀多良媛せやだたらひめという女の方のおそばへ、朱塗しゅぬりの矢に化けておいでになり、ひめがその矢を持っておへやにおはいりになりますと
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
かれは、ふるびた、朱塗しゅぬりの仏壇ぶつだんまえっても、なんのこともかんじなくなりました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
無論むろんそれはわばかたなせいだけで、現世げんせかたなではないのでございましょうが、しかしいかにしらべてても、金粉きんぷんらした、朱塗しゅぬりの装具つくりといい、またそれをつつんだ真紅しんく錦襴きんらんふくろといい
そのまずいつらを眺めてあッ気にとられたのは道中師の伊兵衛で、朱塗しゅぬりの広蓋ひろぶたに飲みちらした酒の徳利や小皿があり、そばには木枕がころがッていますから、馬春堂の留守にここへ来るなり
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町の家の峯をかけ、岡の中腹を横に白布をのしたようにかしぎの煙が、わざとらしくたなびいている。岡の東端ひときわ木立こだちの深いあたりに、朱塗しゅぬりの不動堂がほんのりその木立の上に浮きだしている。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
仰向あおむけに寝ながら、偶然目をけて見ると欄間らんまに、朱塗しゅぬりのふちをとったがくがかかっている。文字もじは寝ながらも竹影ちくえい払階かいをはらって塵不動ちりうごかずと明らかに読まれる。大徹だいてつという落款らっかんもたしかに見える。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朱塗しゅぬりの木履ぼくりまろばせて行きます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)