有司ゆうし)” の例文
かれの本姓は戸田氏である、近江おうみのくに膳所ぜぜ藩の老臣戸田五左衛門の五男に生れ、三十歳のとき園城寺おんじょうじ家の有司ゆうし池田都維那の家に養嗣子ししとしてはいった。
日本婦道記:尾花川 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
市九郎は、現往明遍大徳衲げんおうみょうへんだいとくのうの袖に縋って、懺悔のまことをいたした。上人しょうにんはさすがに、この極重悪人をも捨てなかった。市九郎が有司ゆうしの下に自首しようかというのを止めて
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
九年春、白龍庵有司ゆうしこぼつところとなる。夏建文帝浪穹ろうきゅう鶴慶山かくけいざんに至り、大喜庵たいきあんを建つ。十年楊応能ようおうのう卒し、葉希賢しょうきけんいで卒す。帝って一弟子いちていしれて応慧おうえと名づけたもう。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
公設展覧会出品の裸体画は絵葉書とする事を禁ぜられ、心中しんじゅう情死の文字ある狂言の外題げだいは劇場に出す事を許さず。当路の有司ゆうし衆庶しゅうしょのこれがために春情を催す事をおもんぱかるが故なり。
猥褻独問答 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
翌日鏡葉之助は、蘭医大槻玄卿の、悪逆非道の振る舞いにつき、ひそかに有司ゆうし具陳ぐちんした。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それがためであったかどうか知れないが、あの不得要領な貧窮組が勃発して江戸市中を騒がすと共に、有司ゆうしも金持も不得要領に驚いてしまいました。ことに驚いたのは金持の連中でありました。
恐ろしい恐ろしい巻き奉書だ、幕府の有司ゆうしの手に渡ったら、上は徳大寺大納言様から、数十人の公卿方のお命が消えてしまわないものでもない。のみならず下は俺のような廃者すたりものさえも憂目うきめ
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
果して屈静源は有司ゆうしに属して追理ついりしようとしたから、王廷珸は大しくじりで、一目散に姿をかくしてしまって、人をたのんでわびを入れ、別に偽物などを贈って、やっと牢獄ろうやへ打込まれるのをまぬかれた。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
落着いていたがあばれる時は近藤以上に荒れる。怨みはよく覚えていて、根に持っていつまでも忘れない。近藤はぎょやすし土方は御しがたしと有司ゆうしも怖れていた。隊長の芹沢は性質がことにねじけていた。
撃ったが最後世間へ知れ、有司ゆうしの疑いを招くだろう。邪教徒の教会はすぐに露見だ。一網打尽に捕縛ほばくされよう。……断じて鉄砲を撃つ筈はない……弓手ゆみての方さえ注意したら、まず大丈夫というものだ
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)