暗然あんぜん)” の例文
ゆくものも暗然あんぜんたり、とどまるものも暗然たり、天には一点の雲もなく、南半球の群星はまめをまいたように、さんぜんとかがやいている。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
私は暗然あんぜんと顔を上げた。芸術家気質でそういうだらしない生活をしているのだろうと、旅川が言外に含めたのではないかと邪推じゃすいしたのである。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
民部みんぶはものをいわなかった。小文治も黙然もくねんとふかいいきをつくのみだった。蔦之助もまた暗然あんぜんと言葉をわすれて、無情むじょうほしのまたたきになみだぐむばかり……
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は、現在の日本人の大多数がもっている最大の弱点を、君らの今朝の起床の様子でまざまざと見せつけられたような気がして、全く、暗然あんぜんとならざるを得なかったのだ。——
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そこには一個の人間の髑髏どくろが、暗然あんぜんとして置かれてあったからです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
といって、一郎は暗然あんぜんと涙をんだ。そして懐中をぐると一と揃いの覆面を出して、ソッとジュリアの枕辺に置いた。——これを見た大江山は始めて気がついたらしく、ハッと一郎の顔をにらんだ。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
車も歳月の力と人の力とにらされて、繩が辛而やつとはまツてゐる位だ。井戸の傍に大株おほかぶ無花果いちゞくがコンモリとしてゐる。馬鹿に好く葉がしげツてゐるので、其の鮮麗せんれい緑色みどりいろが、むし暗然あんぜんとして毒々どく/\しい。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
みな暗然あんぜんとして、なかひとみぢてたのである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
問われたときに、作阿弥は暗然あんぜんと腕をこまぬき
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
平次は暗然あんぜんとしました。本當に妙な事件です。
深夜の客は暗然あんぜんとして、話すに、その顔すらもあげなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
快川かいせんは、しばらく暗然あんぜんとしていたが
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)