あっ)” の例文
三十分でも好いから、あの布団を敷いて、あの掻捲をけて、あったかにして楽々寝て見たい、今頃は誰があの部屋へ寝ているだろうか。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの洗い落したような空のすそに、色づいた樹が、所々あったかくかたまっている間から赤い煉瓦れんがが見える様子は、たしかにになりそうですね
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「今夜は少しあったかいようだね。おだやかで好い御正月だ」と云った。飯を済まして煙草たばこを一本吸う段になって、突然
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この鰹節の出処しゅっしょは寒月君のふところで、取り出した時はあったかく、手のひらに感じたくらい、裸ながらぬくもっていた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「昼間はあったかいが、夜になると急に寒くなるね。寄宿じゃもう蒸汽スチームを通しているかい」と聞いた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
火鉢ひばちに手を翳して、少しあったまっていると、子供は向うの方でまだ泣いている。そのうちてのひらだけはけむが出るほど熱くなった。けれども、背中から肩へかけてはむやみに寒い。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「今年はあったかだもんですからよく持ちます。あれもあなた、浩一の大好きな菊で……」
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれは美人の形容などが出来る男でないから何にも云えないが全く美人に相違ない。何だか水晶すいしょうたま香水こうすいあっためて、てのひらにぎってみたような心持ちがした。年寄の方が背は低い。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「実は昨夜さくやある所へ行って、冗談じょうだん半分にめたら、御土産おみやげに持っていらっしゃいと云うから貰って来たんです。その時は全くあったかだったんですがね。これは今上げようと思ってし返さしたのです」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奥さんは枕元まくらもとに坐って、大方おおかた風邪かぜを引いたのだろうから身体からだあっためるがいいといって、湯呑ゆのみを顔のそばへ突き付けるのです。私はやむをえず、どろどろした蕎麦湯を奥さんの見ている前で飲みました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)