春蚕はるご)” の例文
旧字:春蠶
春蚕はるごの済んだ後で、刈取られた桑畠くわばたけに新芽の出たさま、林檎りんごの影が庭にあるさまなど、玻璃ガラスしに光った。お雪は階下したから上って来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これもその年あたりは春蚕はるごの出来が大変によろしかった年でしたから在方ざいかたは、みんなたんまりとまとまった金を握っていたはずでございますし
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その日も、校長が欠席児童の督促に出掛けると言ひ出すと、此木田はうち春蚕はるごが今朝から上蔟じやうぞくしかけてゐると言つて、さつさと帰り仕度をした。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
丁度上州一円に、春蚕はるご孵化かえろうとする春の終の頃であった。山上から見下すと、街道に添うた村々には、青い桑畑が、朝靄あさもやうちに、何処どこまでも続いていた。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
田舎紳士いなかしんしは宿場へ着いた。彼は四十三になる。四十三年貧困と戦い続けたかいあって、昨夜ようや春蚕はるご仲買なかがいで八百円を手に入れた。今彼の胸は未来の画策のために詰っている。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
「且那様。どう云うわけでごわすか、俺等の田は、今年は大へん出来が悪くて、小作米の半分も出来ねえのでごわすが、来春の春蚕はるごが上るまで待って項くわけに行きしめえか?」
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
タネ付け料も、絹や稲などで、先に払うてあるし、仲介なかだちの者から、この一月、とうに話もついておること。いまは、春蚕はるごを飼うので、手もない時故、御子ひとりで、行てくだされ。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これからまた春蚕はるごの支度だ桑つみだ研究所は閉鎖だちよとお別れだ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「近在で春蚕はるごのあがったのを置集めているところです」
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わたしぁ桑摘むぬしきざまんせ、春蚕はるご上簇あがれば二人ふたり着る。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「宮川先生も、ずいぶんお待ちになったでしょう。なにしろ春蚕はるごの済まないうちは、どうすることもできませんでした。糸はでそろいませんし。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
暗くなるまでの一日仕事をおえて帰るにも、手ぶらでは帰らない、腰の曲った体のかくれるほど、春蚕はるごの桑の葉を背負いこんで、なお、夜業よなべ飼蚕かいこでもやろうというくらいなおすぎ婆あさんであった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「近在で春蚕はるごのあがったのを買集めているところです」
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)