明窓あかりまど)” の例文
日の光は急に戸口より射し入り、暗い南の明窓あかりまども明るくなった。「ああ、日が射して来た、先刻さっきまでは雪模様でしたが、こりゃ好い塩梅あんばいだ」
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
橋から橋へ、河岸のくらの片暗がりを遠慮らしく片側へ寄って、売残りの草花の中に、蝶の夢には、野末の一軒家の明窓あかりまどで、かんてらの火を置いた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おれは行くよ。おぬしらは六十、七十まで生きのびて、馬鹿なの世界で、いいだけっつっつするがよかろう。冥土の明窓あかりまどから見ていてやるぞ」
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その扉の上の明窓あかりまどから洩れ込んで来る、仄青ほのあおい光線をたよりに、両側に二つ並んでいる急な階段の向って左側を、ゴトンゴトンと登り詰めて右に折れると
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
力をこめて引きはなされた二つの影は、糸のやうにもつれあひつつ、ほのぐらき明窓あかりまどのあたりをさまようた。
薄い日の光は明窓あかりまどから射して、軒から外へれる煙の渦を青白く照した。丑松は茫然と思ひ沈んで、に燃え上る『ぼや』のほのほ熟視みつめて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
一方いつぱう明窓あかりまど障子しやうじがはまつて、其外そのそとたゝみ二疊にでふばかりの、しツくひだたきいけで、金魚きんぎよ緋鯉ひごひるのではない。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この大きな、古風な、どこかいかめしい屋造やづくりの内へ静かな光線を導くものは、高い明窓あかりまどで、その小障子の開いたところから青く透きとおるような空が見える。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
薄暗い明窓あかりまどのひかりでお婆さんは何か探し物をしていたが、やがて網戸をくぐって、土蔵前の階段を下りて来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一日働いて疲労くたぶれて居るところだつたから、入つた心地こゝろもちは格別さ。明窓あかりまどの障子を開けて見ると紫菀しをんの花なぞが咲いてるぢやないか。其時僕は左様さう思つたねえ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
台処の流許ながしもとに流れる水は皆な凍り着く。ねぎの根、茶滓ちゃかすまで凍り着く。明窓あかりまどへ薄日の射して来た頃、出刃包丁でばぼうちょうか何かで流許の氷をかんかんと打割るというは暖い国では見られない図だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
冬の光は明窓あかりまどから寂しい台所へさしこんで、手慣れた勝手道具を照していたのです。私は名残惜しいような気になって、思乱れながら眺めました。二つべっついは黒々と光って、角に大銅壺おおどうこ
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女亭主かみさんほうけた髪を櫛巻くしまきで、明窓あかりまどから夕日を受けた流許ながしもとに、かちゃかちゃと皿を鳴して立働く。炉辺には、源より先に御輿みこしを据えて、ちびりちびり飲んでいる客がある。二階には兵士の客もある様子。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)