旧臘きゅうろう)” の例文
詩の作者頼三樹三郎らいみきさぶろうのことで、旧臘きゅうろう廿五日、頼は梅田雲浜うめたうんぴん老女村岡ら三十余人とともに京師けいしから護送されて、正月九日江戸着
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
旧臘きゅうろう解散した脚本部の人たちの顔もみんな見えた。誰れもかれも落附かないで、空気が何処となく昂奮していた。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
追わんが為である。且つ旧臘きゅうろう我軍攻撃に際しては諸軍救授を為さなかったから、今日は見物させて戴く事にする
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
旧臘きゅうろう私は小山内おさない君の自由劇場の演劇を見た、仲々上手だった、然しあれを今の劇壇に直にまた持って来る事も出来ないでしょうし、文士劇でも勿論あるまい。
当今の劇壇をこのままに (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
旧臘きゅうろうことの次第を詳細博士のもとへ書き送りて、博士の出張を求めてきたが、博士は、前例によれば家人の内にこの妖怪が潜んでおるのであろうと鑑定して
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
旧臘きゅうろう二十四日、全国各新聞は一斉に、社会面二段三段を抜いて——中には、四段五段を割いたものもあって
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
さて旧臘きゅうろう以来種々御意匠をわずらはし候赤坂豊狐祠畔あかさかほうこしはんの草庵やつと壁の上塗うわぬりも乾き昨日小半こはん新橋しんばし
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
旧臘きゅうろう押し詰まっての白木屋しろきやの火事は日本の火災史にちょっと類例のない新記録を残した。犠牲は大きかったがこの災厄さいやくが東京市民に与えた教訓もまたはなはだ貴重なものである。
火事教育 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さて旧臘きゅうろう中一寸申上候東京表へ転住の義、其後そのご色々の事情にてはかどりかね候所、此程に至り諸事好都合にらちあき、いよいよ近日中に断行の運びに至り候はずにつき左様御承知被下度くだされたくそうろう
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
武男は昨年の夏初め、新婚間もなく遠洋航海にで、秋は帰るべかりしに、桑港そうこうに着きける時、器械に修覆を要すべき事の起こりて、それがために帰期を誤り、旧臘きゅうろう押しつまりて帰朝しつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
私は旧臘きゅうろうからのゴタゴタで、満足な仕事もせず、世の中から忘れられたとひがんでいたときだけに、その客たちが嬉しく、桂子が二時間経っても、まだ来ない気持の苛立いらだちも紛らすことができた。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
小「はい新年で誠に目出度い、旧臘きゅうろうはまた相変らず歳暮を自宅やどしもの者までへ心附けくれられて、誠に有難い、また相かわらず重三郎を其の方の代としての年頭で、年玉ねんぎょくの品々をかたじけのうござる」
旧臘きゅうろう珍らしくあたたかだったので、霜よけもせぬ白菜に蕾がついたのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
旧臘きゅうろう京都を立つ前に、藩の御用飛脚から受け取った妻の消息の文面が、頭のうちに、消しても消しても浮んでくる。それに続いて妻の、初々ういういしい笑顔が浮んでくる。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
旧臘きゅうろうのことである。まだ十日とは経っていない。恋に敗れた近江之介が、新家庭の歓楽に浸り切っているであろう、喬之助を、事ごとに役所でいじめるのに不思議はなかった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)