旗幟はたのぼり)” の例文
金蔵は、旗幟はたのぼりを立てる大きな石の柱の下にうずくまって、振分ふりわけの荷物を膝の上に取下ろし、お豊の面をさも嬉しそうに見ています。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すると賑やかな演劇囃子しばいばやしが耳の穴へ流れこんできた。ははあ、いつぞや小二が噂していた掛小屋だな。木戸の呼び声、旗幟はたのぼりのはためき。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
保安上ほあんじやう容易よういならぬ問題もんだいであるといふので(それにみだりに神社呼じんじやよばはりをこと法律はふりつゆるさぬところでもあるので)奉納ほうのう旗幟はたのぼり繪馬等ゑまとうてつせしめ、いはやから流出りうしゆつする汚水をすい酌取くみとるをきん
続いて笹付の青竹に旗幟はたのぼりの幾流が続々と繰り出されて来る、村から停車場へと行くこの道は、早くも蜿蜒えんえんたる行列がき栄えられて来た。
しかし昨日今日、船上山にひるがえる無数な旗幟はたのぼりをはるかに見て、これでわしの任はすんだと、ひそかにはうれしい気もする。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白木綿と茜木綿あかねもめんの布で、これでできる限り幾多の旗幟はたのぼりがこしらえられ、同時に、どこでどう探したのか陣鐘、陣太鼓の古物が見つけられ
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
吉川、小早川の援軍が、彼方かなたの山々に到着して、その旗幟はたのぼりをここから望んだときは、全城の士民はみな蘇生そせいの思いを抱いて
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤坂を出て宝蔵寺まで来た時分に、お角は駕籠かごの中から、景気のよい旗幟はたのぼりを見て、グッと一つの興味がこみ上げて来ました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
同時に、このときを記念して、彼は、黒田家を象徴しょうちょうする軍旗と馬簾ばれんなどを新たに制定した。旗幟はたのぼりの印には、永楽通宝えいらくつうほうを黒地に白く抜き出した。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず眼を驚かすものは、行手の山々と左右の峯々に立て連ねられたおびただしい、諸家の紋所打ったる旗幟はたのぼりと馬印であります。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いらざることをとのお叱りをこうむるかもしれませぬが、敵方はみなこの烈風を見て、旗幟はたのぼりは用をなさじと、杉の葉を笠印かさじるしとしておる由にございまする。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高倉山から三日月山の附近——峰谷々にわたって、さかんなる火焔をあげさせた。また、昼は、高いところの樹々のあいだから、無数の旗幟はたのぼりをかかげて
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時、米友の背後がにわかにザワめいて、旗幟はたのぼりを押立てたおびただしい人数が、街道を練って来るのを認めました。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「山のごとく飾り立て」とあるのは船楼やともに、旗幟はたのぼりだのやりや熊手を植えならべて進んで行ったものであろう。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨日きのう話に聞いた上野広小路。そこへ立って人の肩から、そっとのぞくと、お絹の話した通り、旗幟はたのぼりを立てた坊さんが、物々しく、御本体不動尊の絵像を売っている。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
遠くから望んでも船上山の春は、春の花よりも諸州からせ参じた国々の武士の旗幟はたのぼりのほうが多かった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その坊さんたちの仰々しい錦襴きんらんの装いや、不動明王御本尊と記した旗幟はたのぼりが、いかにも景気がよいものですから、お絹も足をとどめて、人の肩からちょっとのぞいて見ますと
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それまでの旗幟はたのぼりは黒田家として定まったものもなく、仏号、星の名、干支かんしなどを、その時々に書いたものを用いていたが、そういう祈祷的なものであってはならぬと
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしながら、こうして部署を定め、旗幟はたのぼりを割振ったところで、いずれも同じような赤と白とのほかに、鬱金うこんだの、浅黄だの、正一位稲荷だの、八雲明神だのばかりでは困る。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
炎熱八月の雲の峰の下に、帝釈山たいしゃくざん旗幟はたのぼりは、すずやかに、また、こともなげに、ひるがえっていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)