敦厚とんこう)” の例文
しかも巍の誠を尽し志を致す、其意と其げんと、忠孝敦厚とんこうの人たるにそむかず。数百歳の後、なお読む者をして愴然そうぜんとして感ずるあらしむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
日本の辺鄙へんぴ福岡地方の能楽を率いて洋風滔々の激流に対抗し、毅然としてこの国粋芸術を恪守かくしゅし、敬神敦厚とんこうの美風を支持したのは翁一人の功績であった。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
……睡鳳ずいほうにして眼底に白光びゃっこうあるは遇変不眊ぐうへんふぼうといって万人に一人というめずらしい眼相。……天庭に清色あって、地府に敦厚とんこうの気促がある。これこそは、稀有けうの異才。
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それよりもあの素朴な態度と敦厚とんこうな人情、不自由に安んじて物に屈托しないゆったりした心がまえ、それらをこそ何と勝手にも私どもは、常に山村の人達に期待し要求している。
奥秩父 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
和気清麻呂わけのきよまろの第五子参議和気真綱まつなは、資性忠直敦厚とんこうの人であったが、或時法隆寺の僧善愷ぜんがいなる者が少納言登美真人直名とみまひとのじきなの犯罪を訴え、官はこれを受理して審判を開くこととなった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
又この稜を厭うてカマボコ形に円味でおとす場合もある。これは敦厚とんこうな感じである。
書籍の風俗 (新字新仮名) / 恩地孝四郎(著)
温良敦厚とんこうな紳士、数々の配慮を受けたことは深謝に堪えない。私たちには立派な性格の人として永く記憶に残った。順天は古い都城で、今でもかなりな町だ。幸にも幾分旧態が残る。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もはや、電気以前の朦朧もうろうたる録音に耳を澄ますまでもなく、我らは名匠アドルフ・ブッシュの敦厚とんこう荘重な魂と、堅実無比な技巧に接し、名残なく瑰麗かいれいな美しさを味わうことが出来るようになった。
なんとなればことわざにも、「なさけ」という通り、人情が敦厚とんこうなれば、——もっとくだいていえば親切とか思いやりとか誠とかがあると、人世はうるわしきもの、生ける甲斐かいあるもののように思われる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
諸将のうちに於て年最もわかしといえども、善戦有功、もとより人の敬服するところとなれるもの、身のたけ八尺、年三十五、雄毅開豁ゆうきかいかつ、孝友敦厚とんこうの人たり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この山本大膳は江戸駿河台鈴木町に住んでおって、累代御代官を勤め、その人となり敦厚とんこうにして、忠孝を勧め、勤倹を励まし、治水に功績あるなど、当時頗る令名のあった人である。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
高巍こうぎの説は、敦厚とんこうよろこしと雖も、時既におそく、卓敬たくけいの言は、明徹用いるに足ると雖も、勢かえし難く、朝旨の酷責すると、燕師えんしの暴起すると、実にたがいあたわざるものありしなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)