擦剥すりむ)” の例文
「おゝ、ひざ擦剥すりむけました、薬をつけて上げませう。」と左手ゆんでにはうして用意をしたらう、既にかおりの高いのを持つて居た。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
年は二十三四、色の黒い、とがったような顔つきで、格闘したときに擦剥すりむいたのだろう、左の頬骨のところに血がにじんでいた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
銀杏髷いちょうまげがグシャグシャになって、横頬を無残に擦剥すりむいていたが、ジッと唇を噛んで、眼を閉じて、横を向いていた。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こうなると人間に眼のあったのは全く余り有り難くありませんね、盲目めくらの方がよほど重宝ちょうほうです、アッハハハハ。わたくしも大分小さな樹の枝で擦剥すりむきずをこしらえましたよ。アッハハハハ。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
若君は笠木塀を乗り越えるとき泣きそうになり、台地を跳び下りるときひざ擦剥すりむいた。動作がのろくさして不器用で、つい舌打ちをしたくなった。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
(それではこんなものでこすりましてはやわらかいお肌が擦剥すりむけましょう。)というと手が綿のようにさわった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
魚市場せりばへ行ってみると、黒い背甲せこう擦剥すりむいて赤身をした奴がズラリと並んで飛ぶように売れて行ったものだが、これは春先から対州たいしゅうの沿岸を洗い初める暖流に乗って来た鰤の大群が
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
(それでは恁麼こんなものでこすりましてはやはらかいおはだ擦剥すりむけませう、)といふと綿わたのやうにさはつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けれどもお孝はなかば夢中で走り、家へ着くまでに二度も転んで、片方の膝をひどく擦剥すりむいた。……父は仰向けに寝て。胸の下まで夜具をまくって、枕から頭を外していた。
寒橋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どういう拍子か、背中を強く擦剥すりむきまして、きゅうのあとから走るように血が流れたんで、二ツに裂けたという騒動、もっともひきつけてしまいました、へい、何、別条はござりません。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おお可哀そうに痛かったかい、まあまあお召が砂だらけだ。どこも擦剥すりむきはしなかったの。え、てのひらを、どれお見せ、ほんとにねえ。」と何を持ちしか汚穢むさき手に、あたたき口をけて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
体もきずに遊ばしてかばって下さいますから、勿体ない、私は一ヶ所擦剥すりむきました処もございません。たといさきの世の約束事でも、これまでに御恩を受けますことはないのでございます。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちっと擦剥すりむいた位、怪我けがも何もしないけれども。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おやおや、道理で額を擦剥すりむいてら。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)