さしはさ)” の例文
「青江の申すことは事実です」杉田庄三郎が口をさしはさんだ、「……お嬢さまは先生から靖献遺言の御講義をお聴きになったと思いますが」
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
余は既往に於て被害民の数〻簑笠さりつ上京したるを見聞せり。当時余は多少其の間に疑惑をさしはさまざるに非ざりしも、今に至て始めて之を氷解せり。
鉱毒飛沫 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
なへさしはさむの勞苦は、福神のかりに化して人と現はれて、其の福の道を傳へんが爲に勞作する、と云つても宜い程のものである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この幾千萬篇か知れぬ戲曲は、戲曲の體裁として作者自らが評論の詞をばさしはさまざりしならん、皆所謂沒理想なりしならん。さるにかの數百千家はその名、骨とともに朽ちぬ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
而して予は理性が之れに対して究竟きうきやうの是認以外に何等の言をもさしはさあたはざるを見たり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
又かかる現象が智的生活の渦中に発見された場合には道徳的ではない。然しその生活を生活した当体とうたいなる一つの個性に取っては、善悪、合理非合理の閑葛藤かんかっとうさしはさむべき余地はない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おおやけの事に奔走すれば野心家とうたがわれ、老後他人の厄介やっかいになるまいと貯蓄ちょちくこころざせば吝嗇奴りんしょくどあなどられ、一挙手きょしゅ、一投足とうそく、何事にしても、吾人ごじんのする事なす事につき非難をさしはさむことのなきものはない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
とっさんの遺言をわれ忘れたか、従弟同士で夫婦になればいえおさまりもつくだから、かりそめにわたくしの遺恨をさしはさんで夫婦別れをするようなことがあると、草葉の蔭から勘当するぞと言わしったことを忘れて
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と内藤夫人が次いで言葉をさしはさんだ。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「こんどはなんでいらしったの」志保は妹の饒舌を抑えるように口をさしはさんだ、「……なにかこちらに御用でもあってなのですか」
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
俄羅斯オロシアの人ツルゲニエフ小説喧嘩買けんくわがひ、Bretojór をあらはす。獨逸の人ヰルヘルム・ランゲ其文を讀みて作者が喧嘩買をにくみながらもあへて一貶辭へんじさしはさまざるを稱へて止まず。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)