てこ)” の例文
そして角燈を地上に置くと、石の端の下へてこの先を押入れて、其石を擡げ始めた。石が自由になると彼は更に寄生植物を取除とりのけにかゝつた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
伊作をかばいだすと、てこにもおえなくなるのが、むかしからの例だから、これはもう、きいても無駄だと思って、せんさくをするのはやめにした。
野萩 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「さあ、引渡せ、そうでなきゃあ団扇で煽げ、」と愛吉は仰向あおむけに寝て大の字なりてこでも動きそうな様子はない。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と森松はれこんでいくらいっても動きません。其の筈で森松などから見ると三十段も上手うわての悪党でござりますから、長手の火鉢ひばちすみの所へ坐ったらてこでも動きません。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たった一つこれだけはあさり続けて来たつもりの食味すら、それにまつわる世俗の諸事情の方が多くて自分を意外の方向へ押流し、使いまわてこにでもなっているような気がする。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ところがこうした彼が往来へ突っ立ったが最後、実際、彼は「てこでも動かない」のである。
沼畔小話集 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
あまり美しくもなく、その単純な性質と温和おとなしさが何よりの取柄だつた娘のあいは、知吉にどんな魅力を感じたものか父親の意見にはてこでも動かない大胆さを示したのである。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
そこで僧院長アベセラピオンは鶴嘴とてこと角燈とを整へて、わし達二人は真夜中に場所も位置も彼のよく知つてゐる——の墓地へ出かけたのであつた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
「梅雨あけに、医師せんせいと、この骨さ拾いに来っけ。そんころの雨に緩んだだね。腕車くるまもはい、持立もったてるようにしてここまではいて来ただが、さきてこでも動きましねえでね。」
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とぼけたりするところを見ると、たしかになにかあったのらしいが、伊作をかばいだしたらてこにもおえなくなるのがむかしからの例なので、きいても無駄だと思ってやめにした。
ユモレスク (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
胸へばかり込上げる——その胸を一寸ずつ戸擦れに土間へ向けて斜違はすかいに糶出せりだすんですがね、どうして、つかまった手は、段々堅く板戸へ喰入るばかりになって、てこでも足が動きません。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)