挙措きょそ)” の例文
旧字:擧措
……汀はさすがに部屋から出なかったが、藤六は炉端へ出て人々の話を聴きながら、いつも眼はその老人の挙措きょそに見いっていたのである。
足軽奉公 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして、自分の子が産まれてからというものは、さらに深刻な疑い深いと思えるほどの眼光を、家内の挙措きょそに注いだのである。
盗難 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
男は日露戦争中負傷の際に気が狂って以来ずっとここ病房びょうぼうの患者であるそうですが、病状は慢性なかわりに挙措きょそは極めて温和で安全であると聞きました。
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
平静な時は読書に一日を費しているが、挙措きょそ動作が何処やら異っているので警戒しなくてはならないと見られた。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
水城みずきの戸を出れば、われ先きに箱崎の津へと必死になって落ちて行く。宮中の礼儀も、挙措きょその優雅もあったものではない。そして強風を交えた豪雨である。
四歳の頃よりまいを習いけるに挙措きょそ進退の法おのずから備わりてさす手ひく手の優艶ゆうえんなること舞妓まいこも及ばぬほどなりければ、師もしばしば舌を巻きて、あわれこの
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お払い箱というときは襟首えりくびをつままれて、腰骨を蹴られてポンとほうりだされるが、これも挙措きょそ動作がひじょうな誇張のもとに行われる、南米のラテン型の一つ。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
与えられた範囲で常に最善を尽くすという師の智慧ちえの大きさも判るし、常に後世の人に見られていることを意識しているような孔子の挙措きょその意味も今にして始めて頷けるのである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
懇切な優雅さ、意地悪と品位とを保ちながら愛想を見せることのできる、挙措きょそのやさしさ、または、眼差や微笑や、機敏で呑気のんきで懐疑的で雑多で軽快である才知などの、高雅な繊細さ。
むだ使いは一切つつしみ、三十歳を少し出たばかりの若さながら、しこたまためて底知れぬ大長者になり、立派な口髭くちひげやして挙措きょそ動作も重々しく、山賊にはものくまの毛皮などは着ないで
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは広間で甲斐になにごとか囁かれてからのことだが、顔つきも挙措きょそもおちつきを失い、言葉も常になく堅苦しくなった。
で、如何いかに、挙措きょそを解放するにしても、常にある程度の収攬しゅうらんを、おのずから自分の上に忘れてはいけません。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
警抜なる挙措きょそ、愛すべき図々しさ。なんという、スッキリとした厭味のないやつだろう。しかし、この男が何者かということは、ほぼ彼に想像がついていたのだ。泥坊か、密輸入者か故買者けいずかいか。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
自然、日常の挙措きょそも、こころがまえも、ほかの青年たちとは違ったし、なにを見、なにを考えるにも、藩の将来と結びつけないためしはなかった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
このひと月あまりのうちにどことなく変ってきた妻の挙措きょそが、あれこれと新らしく思い返されて心が重くなるのだった。
日本婦道記:尾花川 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
縹緻きりょうもぬきんでているし、挙措きょそもおっとりと優雅で、色や香りの濃厚な花を連想させるちぐさとは、あまりに違っているし、そのうえふしぎなことに
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また土田正三郎も平生はもっと話をするし、動作や挙措きょそもまわりの人たちと変ったところはなかった。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこでしぜんみつ枝嬢のとりこになる順序なのだが、……彼に対するみつ枝の関心、ないしその挙措きょそ言動はいよいよ親密になり、ときにはなは濃艶のうえんを呈するようになった。
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は十七歳になり、もちろん元服しているし、背丈も伸び、からだもかなりたくましくなったが、顔だちや挙措きょそはまだ少年らしく、二つ年下の宇乃のほうが、はるかにおとなびてみえた。
「ふさどのはよほどお育ちがよいようでございますな」と吉塚が云った、「気性もしっかりしておられるし、挙措きょそ動作も優雅で、手蹟しゅせきのみごとなことはちょっと類のないくらいです」
その木戸を通って (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おもやつれはしているが、挙措きょそもおちついているし、言葉もはっきりと力があった。
注意を凝らせて杉田庄三郎の挙措きょそを視た。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)