投函とうかん)” の例文
あとからも続けてきたことをみても、たぶん実際の犯人が執筆投函とうかんしたものかもしれない。が、どこの国にも度しがたい馬鹿がいる。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ある時は投函とうかんの時間が遲れたかして一日置いての次の日に二通一緒に來たこともあつた。「また來た。」私は何時もさう思つた。
歌のいろ/\ (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ようやく三度目に書いたものを投函とうかんしたが、出してしまうと、出さない方がよかったのではないかと、直ぐ後悔する気になった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その文面はいつも大同小異で、こちらが返事を出すまでは執拗しつよう投函とうかんをつづける決意をかためているように見えた。ここにその一通を例示すると
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どろどろした彼の苦悩が、それらの手紙に吐け口を求めたものだったが、投函とうかんした後ですぐ悔いるようなものもあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「大花瓶を壊すことは分りましたが、翌朝ハガキを投函とうかんにいくといって、なんのハガキをもって出るのですか」
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その明いたのに気がついた時、無意識にあの別荘番を予期していた私は、折よく先刻書いて置いた端書の投函とうかんを頼もうと思って、何気なくその方を一瞥した。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
午後ははがきなど書いて、館の表門から陸路停車場に投函とうかんに往った。やわらかな砂地に下駄をみ込んで、あしやさま/″\の水草のしげった入江の仮橋を渡って行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
妾はこれだけ書いて、大急ぎで封をして、胸をどきどきさせながら、近所のポストへ投函とうかんしました。
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
書いた葉書を投函とうかんするために岸本は宿を出た。日本人をめずらしがってうるさく彼に附纏つきまとうた界隈かいわいの子供等も、二月ばかりつうちに彼を友達扱いにするものも多かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もっともその封筒は区役所などで使うきわめて安い鼠色ねずみいろのものであったが、彼はわざとそれに切手をらないのである。その代り裏に自分の姓名も書かずに投函とうかんしていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕は手をたたいて人を呼び、まだ起きているだろうからと、印紙を買って投函とうかんすることを命じた。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
それよりほかに生き方が無いと思われて、三つの手紙に、私のその胸のうちを書きしたため、みさき尖端せんたんから怒濤どとうめがけて飛び下りる気持で、投函とうかんしたのに、いくら待っても、ご返事が無かった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
佐世保を出発する前日、武男は二通の書を投函とうかんせり。一はその母にあてて。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
わたしが投函とうかんして帰つて来ると、留守中にその手紙を拾ひ読みしてゐた娘が急いで立つて行くのを見た。そこでわたしの方でも早速裏手に下りて行つて、手紙を風呂のきつけに放り込んでしまつた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
いうまでもなく、辻堂が病床で呻吟しんぎんしながら、魂をこめて書いたものに相違ない。そして、それを自分の死んだあとで息子に投函とうかんさせたものに相違ない。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は三日目くらいには田舎いなかにいる葉子に手紙を書いた。書いたまま出さないのもあったが、大抵は投函とうかんした。もう幾本葉子の手許てもとにあるかなぞと彼は計算してみた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
下女にそれを投函とうかんさせたあと、彼は黙って床の中へもぐり込みながら、腹の中で云った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
斯く出たらめをはがきに書いつけ、石狩いしかり鹿越駅しかごええきで関翁あて投函とうかんした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かく、一人が投函とうかんする、一人が名前を借す。で今来たのが名前を
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ラブレタアが投函とうかんされていたことを、何かのおりに感づいて
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)