つか)” の例文
彼は能弁ではあったが、要領をつかむ術に欠けていた。むやみに埴谷図書助の非を述べ、慷慨こうがいし、そして笙子しょうこという令嬢を警戒せよと云った。
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼には順一の心理がどうもつかめないのであった。「ねてやるといいのよ。わたしなんか泣いたりして困らしてやる」
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
大局から、我々のつかんでいるところから見とおして私の最善の善意と努力で噛みこなして滋養にしましょう。
いや、宗教を離れては、どうしても「生きる」ということのほんとうの意味を、つかむことはできないのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
ひだを丸鑿で木を深く削り込んで彫ってゆく意味がはっきりつかんである。顔のようなところには肉を減らさない為に丸鑿は使わず、平鑿で突きつけて彫っている。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
女を一人ずつ相手に快活に喋舌しゃべって居る二人の男は中央アメリカの高山へ望遠鏡を運んで天文学の生きた証拠をつかんだベンアリ・マッツカフェーと弟のベンアリ・ハギンだ。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
片手に、酒杯さかずきを持ち、片手に剣のつかを握って不意に起ってきたのである。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まだらしいな」正三はぼんやりこたえた。相変らず、順一は留守がちのことが多く、高子との紛争も、その後どうなっているのか、第三者にはつかめないのであった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
身ひとつになって仏法の神髄をさぐるのだ、まことに生死を超脱して生きる道、いかなる大事に当面してもゆるがざる不動の一念、そのひとつをつかむまでは雲水を続けよう
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「空の根柢こんてい」となり、「空の内容」となっているところの「因縁」という言葉からお話ししていって、そして自然に、空という意味をつかんでいただくようにしたい、と思うのであります。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
僕もよろめきながら見て歩いた。今にもぶっ倒れそうな痩男やせおとこがひらひらと紙幣を屋台に差出し、手でつかんだものをもう口に入れていた。めらめらとゆらぐ焔はいたところにあった。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
つかんだと思った幸福は、彼の手の中でもろくも消えようとする。彼は狼狽ろうばいした、みじめに狼狽した。妻の病気を治し家庭の幸福をとり戻すためには、どんな代価をも払おうとした。
雨の山吹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たとい、空のもつ、ふかい味わいがつかめなくても、せめて「裸にて生まれて来たになに不足」といったような、裸一貫の自分をときおり味わってみることも、また必要かとおもうのであります。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
甲、信、駿の全土をその勢力のもとにつかんだ武田たけだ氏は、遠江とおとうみ参河みかわの一部を侵して、ずいしょに砦城をふみやぶりながら、三万余の軍勢をもって怒濤どとうのごとく浜松城へと取り詰めている。
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この中からつかむべきものを把め、——そういう感じがおぼろげに了解された。
落ち梅記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いやそんなことはない、友達づきあいとはいえ、『みよし』などへ遊びに来るからには、まったく興味がないわけではなかろう……まだ初心なので、自分から機会をつかむことができないだけだ。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だが、その調書からは、具体的なことは、ごく僅かしかつかめなかった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)