払暁あけがた)” の例文
旧字:拂曉
八住は毎夜払暁あけがたになると、不自由な身体を推してまでも花市に行って、蕾のアマリリスを買っては、取り換えていたのです。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
もつともこの幻影まぼろしは長く後まで残らなかつた。払暁あけがたになると最早もう忘れて了つて、何の夢を見たかも覚えて居ない位であつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
急いで時計を見ると払暁あけがたの四時だった。「これじゃアとても競争が出来ない、」とその後私の許へ来て話した。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
すると暴風雨数日ののち、たった二人だけ生き残って絶海に漂流する事又十数日、ついに或る天気晴朗な払暁あけがたに到って、遥か東の方の水平線上に美々しく艤装ぎそうした大船が
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その翌る日の払暁あけがたから、彼らは粛々と隊伍を整え、飛騨を目指して進んで行った。雪に埋もれた山道を互いにいましめ助け合って一人の落伍者もないように上へ上へと登って行く。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
足の疲れはいよいよ甚しく、時には犬に取り巻かれ人に誰何すいかせられて、からくも払暁あけがた郡山に達しけるが、二本松郡山の間にては幾度いくどいこいけるに、初めは路のかたわらの草あるところにこしを休めなどせしも
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こうして、フォン・エッセンの存在がいよいよ確実にされたのみならず、払暁あけがたの五時には、おそらくその触手が、ウルリーケの上に伸べられるであろう。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
山登りをした制服もれ萎れて見えた。この中学生は払暁あけがたに噴火口を見て、疲れた足を引摺ひきずりながら降りて来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ここ産落うみおとされては大変と、むりに行李へ入れて押え付けつつ静かに背中から腰をさすってやると、い気持そうにやっと落付いて、暫らくしてから一匹産落し、とうとう払暁あけがたまで掛って九匹を取上げたと
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
まんじが聯想されてくるのでして、また、そこに憶測が加わると云うのは、毎夜八住が外出するのが、払暁あけがたの五時を跨ぎ、さらに今日の事件が、やはり同じ時刻に行われているからです。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
払暁あけがたはことに強く当てた。青山の家の裏にある稲荷いなりのそばのくりもだいぶ落ちた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
最早紅くふくらんだつぼみを垂れていたが、払暁あけがたの温かい雨で咲出したのもある。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ええ、今朝……払暁あけがたに息を引取ったそうです……皆な、今、そこへ来ます」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あれ左様さうだあね。誰も彼男あのをとこを庄太と言ふものは無い——みんな「庄馬鹿」と言つてる。日に五度ごたびづつ、払暁あけがた、朝八時、十二時、入相いりあひ、夜の十時、これだけの鐘をくのが彼男あのをとこ勤務つとめなんださうだ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
払暁あけがたまで、お種はろくに眠られなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)