打仰うちあお)” の例文
籠は上に、棚のたけやや高ければ、打仰うちあおぐやうにした、まゆの優しさ。びんの毛はひた/\と、羽織のえりに着きながら、肩もうなじも細かつた。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この影の奥深くに四阿屋あずまやがある。腰をかけると、うしろさえぎるものもない花畠はなばたけなので、広々と澄み渡った青空が一目ひとめ打仰うちあおがれる。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのときまだ年若き宮女一人、殿しんがりめきてゆたかに歩みくるを、それかあらぬかと打仰うちあおげば、これなんわがイイダ姫なりける。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それほど由緒ゆかりのない建築もまたはそれほど年経としへぬ樹木とても何とはなく奥床おくゆかしくまた悲しく打仰うちあおがれるのである。
庵室あんじつから打仰うちあおぐ、石の階子はしごこずえにかかって、御堂みどうは屋根のみ浮いたよう、緑の雲にふっくりと沈んで、山のすその、えんに迫って萌葱もえぎなれば、あまさが蚊帳かやの外に、たれ待つとしもなき二人
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
怪異なる鬼瓦おにがわらを起点として奔流の如く傾斜する寺院の瓦屋根はこれを下から打仰うちあおぐ時も、あるいはこれを上から見下みおろす時も共に言うべからざる爽快の感をもよおさせる。
と夫人は声を沈めたが、打仰うちあおぐやうに籠をのぞいた。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
凱旋門がいせんもんをばあれほど高く、あれほど大きく、打仰うちあおごうとするには、ぜひともその下で、乱入した独逸ドイツ人が、シュッベルトの進行曲を奏したという、屈辱くつじょくの歴史を思返す必要がある。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と白いたなそこを、膝に仰向あおむけて打仰うちあお
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)