手籠てご)” の例文
これ悪漢が持てりし兇器きょうきなるが、渠らは白糸を手籠てごめにせしとき、かれこれ悶着もんちゃくの間に取りおとせしを、忘れて捨て行きたるなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
物取り同様に相手を手籠てごめにして、その紙入れを無体に取りあげたという、うしろ暗いかどがあるからであろうと想像された。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ちっとも自由なところがない。……わたし手籠てごめにしようとした、この国の城主が威張っているよ。何んて厭らしい男だろう。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひどい摺剥すりむきがあつて、横井源太郎は死際に何か特別の状態にあつたこと、——例へば手籠てごめか何かに逢つて居たことを物語るやうでもあります。
相手はとしよりだし、まさか手籠てごめにするようなこともないだろう。いっそしばらく閑静なところで養生してみようか。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
老実な方だと云いましたが、どうしてそうじゃありませんよ、私が東厠べんじょへ往ってると、後からつけて来て手籠てごめにしようとしたのです、ほんとにいやな方ですよ
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「ご友人の妻ときいたので、なおさら、助けねばならぬと思い、たって女を手籠てごめにする。といってかない賊の王矮虎おうわいこを、やっとなだめて、事なく帰してやりました」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あなたはけさこの戸にかぎをおかけになって、……それは手籠てごめです……わたし……」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ああ! それじゃ人を手籠てごめにしようというんだね!」
「大の男が二人がかりで、あたしを手籠てごめにしようとしたじゃないか、ひどいめにあったのはあたしのほうだよ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「嫁が欲しきゃ、尋常に手順をむがいい。千二百石の殿様が、町娘を手籠てごめにして済むと思うか。今までにもそので三人も腰元が死んでいるじゃないか」
「はい、出刃打ちの連中でしょう、四、五人の男が手籠てごめにして、私の懐中の百円を奪りました」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘はあいにくに病気でせって居りますと断わっても、王はかない。どうでもおれの前へ連れて来いとおどしつけて、果ては手籠てごめの乱暴にも及びそうな権幕になって来た。
華冑かちゅうの公子、三男ではあるが、伯爵の萩原が、ただ、一人の美しさのために、一代鐘を守るではないか——既に、この人を手籠てごめにして、牛の背に縄目の恥辱ちじょくを与えた諸君に
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちにだんだん増長して喜兵衛の家へ押し掛けて行く。おとわの家へも行く。それも飲み倒しだけならいいが、しまいには手籠てごめ同様にしておとわを手に入れてしまったんです。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「よし、解った。手籠てごめにされそうになって、ツイ剃刀で斬ったのだろう」
大勢がまずその大小を奪い取って、手籠てごめにしてその暗いひと間へ監禁してしまうのである。廓へ深入りした若侍でこの仕置きを受けた者がしばしばあることは、綾衣もかねて聞いていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分が手籠てごめになろうとしたのを、折よく来かかってたすけてくれた、旅客に顔を見られたが、直ぐにとこうの口も利かず、鬼にられた使の白鳩しらはと、さすがに翼をあやめたらしゅう、肩のあたり
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)