戯作者げさくしゃ)” の例文
そもそも我から意識して戯作者げさくしゃとなりすました現在の身の上がいかにも不安にまた何とも知れず気恥しいような気がしてならなくなった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今この話の中心である戯作者げさくしゃ達の作品を通しても、(狂言は無論のこと)、私は此の精神の甚だ強いものを汲み取ることが出来るのである。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
まるで三流の戯作者げさくしゃみたいです、と家内から忠告を受けた事もあるのですが、くるしい時に、素直にくるしい表情の浮ぶ人は、さいわいです。
小さいアルバム (新字新仮名) / 太宰治(著)
戯作者げさくしゃ殿しんがりとしては、仮名垣魯文と、後に新聞記者になった山々亭有人さんさんていありんど条野採菊じょうのさいぎく)に指を屈しなければならない。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
戯作者げさくしゃ山東庵京伝さんとうあんきょうでんは、旧臘くれうちから筆を染め始めた黄表紙「心学早染草」の草稿が、まだ予定の半数も書けないために、扇屋から根引した新妻のおきく
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
のだいこまがいの金公は、下級戯作者げさくしゃのたわごとを受売りするように安っぽいつうがりで給仕を催促する。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『都之花』以前に『芳譚ほうたん雑誌』とか『人情雑誌』とかいう小説雑誌があった。が、皆戯作者げさくしゃの残党に編輯されていたので、内容も体裁も古めかしくて飽かれていた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
江戸の昔をしのばせるような遠三味線とおじゃみせんを聞きながら、しばらく浅酌せんしゃくの趣を楽んでいると、その中に開化の戯作者げさくしゃのような珍竹林ちんちくりん主人が、ふと興に乗って、折々軽妙な洒落しゃれを交えながら
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
新橋夜話しんきょうやわ』または『戯作者げさくしゃの死』の如きものはその頃の記念である。浮世絵ならびに江戸出版物の蒐集しゅうしゅうに耽ったのもこの時分が最も盛であった。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まるっきりの、根っからの戯作者げさくしゃだ。蒼黒あおぐろくでらでらした大きい油顔で、鼻が、——君レニエの小説で僕はあんな鼻を読んだことがあるぞ。危険きわまる鼻。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
一と頃根岸党と歌われた饗庭篁村あえばこうそん一派の連中には硯友社に一倍輪を掛けた昔の戯作者げさくしゃ気質があった。
裸物はだかものを表に出してはいいとか悪いとか、クッついたり、ヒッついたりの題目をさし止めるとは横暴無礼、奇怪千万と血眼ちまなこになること、馬琴という奴は、戯作者げさくしゃの境涯を脱して
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平野君からの注文は「戯作者げさくしゃ文学論」というので、私は常に自ら戯作者をもって任じているので、私にとって小説がなぜ戯作であるのか、平野君はそれを知りたかったのではないかと思う。
これを文学にたとへんか北斎は美麗なる漢字の形容詞を多く用ひたる紀行文の如く、広重はこまごまとまたなだらかに書流かきながしたる戯作者げさくしゃの文章の如し。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
仮面を脱げ、素面を見せよ、ということはそれを作品の上に於いて行ったから罰が当っただけで、小説という作品の場合に於いては、作家は思想家であると同時に戯作者げさくしゃでなければならぬ。
岡場所は残らずお取払い、お茶屋の姐さんは吉原へ追放、女髪結かみゆいに女芸人はお召捕り……こうなって来ちゃどうしてもこの次は役者に戯作者げさくしゃという順取じゅんどりだ。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
されどこれらの絵本のうちその最もすぐれたる『隅田川両岸一覧』を見れば、北斎がつとに写生のに長じたりし事ならびにその戯作者げさくしゃ的観察のはなはだ鋭敏なりし事とをうかがひ得べし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女中が持運ぶ蜆汁しじみじる夜蒔よまき胡瓜きゅうりの物秋茄子あきなすのしぎ焼などをさかなにして、種彦はこの年月としつき東都一流の戯作者げさくしゃとしておよそ人のうらやむ場所には飽果あきはてるほど出入でいりした身でありながら
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その頃わたしには江戸戯作者げさくしゃのするようなこうした事が興味あるのみならずまたはなはだ意義ある事に思われていたので既に書かけていた長篇小説の稿をも惜まず中途にしてよしてしまった。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)