まも)” の例文
或者はそれは死人のやうな灰色の彼の眼——相手の顔をしげしげ打まもる時の、それはしかし別段骨身に応えるほどの眼付でもなかつたし
帰り来たれば頭白うしてまた辺をまもる。辺庭流血海水を成す。武皇辺を開いて意いまだまず。君見ずや漢家山東の二百州、千村万落荊杞けいきを生ずるを。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
此家は古の墳墓のあとなり。このたぐひの穴こゝらあれば、牧者となるもの大抵これに住みて、身をまもるにも、又身を安んずるにも、事足れりとおもへるなり。
冬子はそれらの人達をもてなすうちにも彼等に対する彼の態度を注意深く見まもっていた。まるで彼は一日中を行ない澄ました修行者のように寝そべっているのだった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
私は黙ってお宮の言うのを聞きながら、そっと其の姿態ようすを見まもって、成程段々聞いていれば、何うも賢い女だ。標致きりょうだって、他人ひとには何うだか、自分にはまず気に入った。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
づ北のかた氷寒界の彼方に蒼面白髪の姉妹を尋ね、それに迫つて、西の国で林檎りんごまもれる三人の処女の在所を訊ねよ。処女はゴーゴン・メヂューサの首をるに必要な三つの品を
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
じつ鈞州きんしゅう白沙里はくさりの人、楊応祥ようおうしょうというものなり。よって奏して僧を死に処し、従者十二人を配流して辺をまもらしめんとす。帝そのうちり。ここおいむを得ずしてその実を告げたもう。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まだ滿にして一歳ひとつにもならぬこの乳呑兒は、乳の香りする息を吐き吐き、春の光のもとの海といふ晴れがましい極彩の魔女の衣裳を、不思議な樣にマンジリ目を開いて見まもつてゐたのである……
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
数年後、今一度李陵は北海ほっかいのほとりの丸木小舎ごやたずねた。そのとき途中で雲中うんちゅうの北方をまも衛兵えいへいらに会い、彼らの口から、近ごろ漢の辺境では太守たいしゅ以下吏民りみんが皆白服をつけていることを聞いた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
玉体と御位みくらいとのかために、さかいを安くまもる上は
(飽かずまもる)
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
寂しきカムパニアの野邊を夜更けては過ぎじとて、こゝに宿りし農夫にやあらん。さらずばこゝをまもる兵土にや。はたぬすびとにや。さおもへば打物の石に觸るゝ音も聞ゆる如し。
菊龍と富江を見出して声をかけたのは時子だった。彼女は感じたことをことごとく言い現わしてしまわなければ承知できなかった。お幸もずるそうな微笑を含んで二人を見まもっていた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
この燃ゆる鼓の音楽は、土蔵の裏手の座敷で、静かに独り子の寝顔を見まもりながら縫物をしていたお光にも響きわたった。お光は三日も冬子に会わなかった。お光は冬子に飢えていた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)