)” の例文
私は程よく燃えているストーヴに暖められながら、いつの間にか氷雨が降っている硝子の外の景色を眺めながらっくりフォークを動かしていた。
褐色の求道 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
広間の中央、床柱を背にして、銀燭ぎんしょくの光を真向に浴びながら、どんすの鏡蒲団かがみぶとんの上に、ったりと坐り、心持脇息きょうそくに身をもたせているのは、坂田藤十郎であった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「さ、お姐ちやんはこちらへお上んなさいよ。今日は夕方までつくり遊んで行つてもいゝんでせう?」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
って云ううちに、又一人、スパリスパリと煙草を吹かしながら、軽い、気取った足取りで階段を降りて来て、っくり悠っくりと妾の傍に近づいた者が居るの……。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いうと、藤吉郎は、陣草鞋じんわらじを脱ぎすて、小六の腰かけていた縁先の沓石くつぬぎから、ずっと上がって、書院のとこの間をうしろに、自分で上座を取ってったりと坐りこんだ。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「君とはいっぺんっくり飲もうと思っていたんだ、今日はひとつ楽しくやろう」
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
距離の加減で、ったりと落ちつきはらって、南の空を、のたくっている、それでも尖りに尖った山稜の鋭角からは、古い大伽藍の屋根の瓦が、一枚一枚くられては、落ちて砕けて
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
っくりさり気なく室の中央へ向って歩き出した。
一本の花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
っくりと、高麗村の者にいて行って、あの二人の素人しろうと仕事の手際を眺めていようじゃねえか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お気に入って結構です。きょうはっくりくつろいで下さい。うちも同然の店ですから」
高原の太陽 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おくみはそれにつくり間に合ふやうに、暗い内から起きて御飯の拵へをした。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
葉陰を洩れた日の光で、紫陽花あじさいの花弁をむらがらしたような、小刻みなさざなみを作って、ったりと静かにひろがるかとおもうと、一枚硝子ガラスの透明になって、見る見る、いくつも亀甲紋に分裂して
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
お通さんもっくり体をやすめて、黙ってそれから先はわしにいておいで——という。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
立科たてしな山の、ったりと緩やかな傾斜が、いかにも情緒的の柔らかさで、雲の中へ溶けている、それらの山々を浮かせて、白銀のような高層の雲が、あざやかな球体をして、幾重にもかさなって
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
だれかつくり、力を入れたものを画かしてくれないかな。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
他人事ひとごとのようである。一学は、友へ酒をぎ、自分の杯へも、ったりと酌いで云う。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何かしら、その頃から後の彼女の胸にはったりと、大きな安心がすわっていた。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
オイお甲、ちょっと待ってくれ。おまえとここで落ちあったのは、二人ぎりでどこか静かな家で二、三日っくりしようという考えじゃないか。……それを、皆様とは一体、誰と誰のことを
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、嘉兵衛は手に持つと、座敷の中ほどに、ったり坐り直した。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『ああいい心地じゃ。ゆるりとやれ、るりと』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(いいえ、私は武蔵様に、少し二人きりで話したいことがあるのだから、城太さんは、夜が明けてから、なるべくっくり五条大橋に後からお出で。——だいじょうぶ、きっと、城太さんが来るまでは、武蔵様とあそこで待っていますから)
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)