性悪しょうわる)” の例文
旧字:性惡
気長に待っているなんぞは、あなたもそうとう性悪しょうわるだが、最後にあなたが手をくだして盃洗の水をひっかけたのはまずかった
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
こうした性悪しょうわるの女を、その本然ほんねんな純情へ立ちかえらせてやるには、神の力よりも、仏の功力くりきよりも、はたまた、幾度とない獄吏ごくりめよりも
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またおれが女中部屋の寝像ねぞううつつを抜かして、ついこんな性悪しょうわるをやらかしたように安く見ていなさるようだが、はばかりながらそんな玉じゃねえんだ。
感じたのであろう最初は一時の物好きで手を出したとしても肘鉄砲ひじでっぽうを食わされた上に男の眉間まで割られれば随分性悪しょうわるな意趣晴らしをしないものでもない。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これ皆町の息子親の呼んで当てがう女房を嫌い、傾城けいせいなずみて勘当受け、跡職あとしきを得取らずして紙子かみこ一重の境界となるたぐい、我身知らずの性悪しょうわるという者ならずや
白の頭上には何時となく呪咀のろいの雲がかゝった。黒が死んで、意志の弱い白はまた例の性悪しょうわるの天狗犬と交る様になった。天狗犬にそそのかされて、色々の悪戯も覚えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「あれ、お前さんも性悪しょうわるをすると見えて、ひがむ事を覚えたね。誰が外聞だと申しました、俊さん、」
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは東栄が所謂いわゆる性悪しょうわるをして、新造花川にそむいたために、曲輪くるわの法でまゆり落されそうになっているところである。鴫蔵しぎぞう竹助の妓夫ぎふが東栄を引き立てて暖簾のれんの奥に入る。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わたくしはこゝにもわたくしの中なる性悪しょうわるな禍津日神を見出します。したが、その葛岡も、こゝへ来てからは矢張り変り出しました。妙に昂奮の気分を見せ始めたのです。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人間みたいな野蛮で性悪しょうわるな動物の頭に浮かんだということが、実に驚嘆に値するんだ、値するのだ、それほどこの考えは神聖で、感動的で、賢明で、人間の名誉たるべきものなんだ。
彼等は、性悪しょうわるで荒っぽくて使いにくい兵卒は、此際このさい、帰してしまいたかった。そして、おとなしくって、よく働く、使いいゝ吉田と小村とが軍医の命令によって残されることになった。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
あれで、短気だから、吉良の性悪しょうわるに勘忍しきれずに、大事にならねばよいが——。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
性悪しょうわるの吉ちゃんも、自由を与えてくれた諸戸の云いつけには、よく従った。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「誰ぞ、克に何ぞ性悪しょうわるしたんじゃないんか」
赤いステッキ (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「申しますとも。あなたぐらい、性悪しょうわるの、男ったらしの、罪つくりな女はありませんよ。この夏中だってそうでしょう、わたしが見て見ないふりをしていれば……」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お客様、お前は性悪しょうわるだよ、この子がそれがためにこの通りの苦労をしている、篠田と云う人と懇意なのじゃないか、それだのにさ、道中荷が重くなると思って、ことづけも聞こうとはせず、知らん顔を
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)