めぐ)” の例文
河原がならされ天幕が張られて、めらめらと勢よく燃え上る火の上で大鍋が沸々音を立てる時分には、冷え切った体にも温い血がめぐり始めた。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
されど表口の戸に近づきて、人のみ合ふこと甚しかりしとき、姫は手を我肘に懸けたり。我脈には火のめぐり行くを覺えき。車をば直ちに見出だしつ。
星のようにゆっくりめぐったり、またこうがわから、どうの人馬がゆっくりこっちへまわって来たりするのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
衞氣篇に見ゆる營氣衞氣は、浮氣の經をめぐらざるものを衞氣と爲し、精氣の經を行く者を營氣と爲すとある。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
大川の奥さんは皮膚も皮下組織も薄くて軟かで、其底をめぐつてゐる血が透いて見えるやうである。かういふ皮膚の女は多くは目鼻立が悪い。此細君丈は破格である。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
絹針は三日三晩悲鳴を上げて泣きつゞけたお姫様の身体中からだぢゆうをば血の流れと共にめぐめぐつて、とう/\心の臓を突破つて、お姫様を殺してしまつたとか云ふ話を聞いた。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
露の滴りの水も草木のうちをめぐつてゐる汁液の水も、吾々の額に滲み出す玉のやうな汗の水も、すべて、海から来てまた海へ定められたとほりの道を通つて帰つてゆく。
無理強ひの盃四つ五つ、それが全然すつかり体中にめぐつて了つて、聞苦しい土弁どべんの川狩の話も興を覚えぬ。真紅な顔をした吉野は、主人のカツポレをしほ密乎こつそり離室はなれに逃げ帰つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私の太い血管を勢いよくめぐる血の快さが、私の清く正しき心に気持のよい寝床を与えている。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
「ふん、あの女はよっぽど馬鹿ばかだよ、少し血のめぐりが悪いんじゃないかね」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
牧羊神パンの血潮とまざめぐつた、かの頃を私は追惜します。
それでもやはり新しい爽かな血がめぐっています。
鬼使は譔をれて西廊をめぐって往った。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夕暮の濃いつめたい空気を透して、遠くから其姿を眺めると、とても暖かい血のめぐっている人間とは想えない。まるで銅像か何ぞのように堅くこちこちしている。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
駈足かけあしにせよ歩度を伸べたる驅足にせよ。燃ゆる毒は我脈をめぐれり。そは世におそろしき戀の毒なり。異議なくば、あすをも待たで猶太の翁を訪へ。われ。そは餘りに無理なるたのみなり。
一秒ごとに石でこさえたふくろうの赤いが、くるっくるっとうごいたり、いろいろな宝石が海のような色をした厚い硝子ガラスばんって星のようにゆっくりめぐったり、また向う側から
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
己はラシイヌを手に持って、当てもなく上野の山をあちこち歩き廻っているうちに、不安の念が次第に増長して来て、脈搏みゃくはくの急になるのを感じた。丁度酒のえいめぐって来るようであった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
節々をめぐっている、あらゆる美なるものの未来の
かゝる時にこそ、我脈絡にカムパニアの野なる山羊の乳汁ちしるめぐらずして、温き血めぐれるを人に示すべきなれ、我が世馴れたることのベルナルドオにもフエデリゴにも劣らぬを示すべきなれ。
血の好くめぐっているものが外にありますか。