影身かげみ)” の例文
彼にはこういう風に、精神病の娘さんが、影身かげみに添って離れないので、自分はかねて母から頼まれたお重の事を彼に話す余地がなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
影身かげみに附添うて、何うともして伊之助さんを守らねばなんねえぞ、これで汝の思う心も届き伊之助さんと盃いすれば斯んな嬉しい事は有るめえ
その夜中やちゅう彼の身辺にどのような怪異が起ったのであるか。我々は暫らく川手氏の影身かげみに添って、世にも不思議な事の次第を観察しなければならぬ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
双鶴館そうかくかん女将おかみはほんとうに目から鼻に抜けるように落ち度なく、葉子の影身かげみになって葉子のために尽くしてくれた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
きにつけ、しきにつけ、影身かげみいて、人知ひとしれず何彼なにかとお世話せわいてくださるのでございます。
ところがながあいだ為朝ためともになついて、影身かげみにそうように片時かたときもそばをはなれない二十八武士ぶしが、どうしてもおともについて行きたいといってききませんので、為朝ためともこまって
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
元旦の朝、若旦那と並んだ姿を見せたのは、影身かげみに添うことだけはゆるしてくれというのだったかも知れない……抑留所ではじめて父娘おやこがめぐり逢うなんて、これは因縁。
ユモレスク (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いよ/\まこと其事そのことあらばとおそろしき思案しあんをさへさだめて美尾みを影身かげみとつきごとまもりぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お立ち会いしゅの大勢さまよ。これが私の洋行土産みやげじゃ。現代文化の影身かげみに付添う。この世からなる地獄の話じゃ。鳥がさえずり木の葉が茂り。花に紅葉もみじに極楽浄土の。中にさまよう精神病者じゃ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分の影身かげみにつき添っている——まあ恋人が多いようだが——そう云う人々の魂が救ったんだともなる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
車のなかで若旦那と並んだ姿を見せたのは影身かげみに添うのはゆるしてくれということだったのかもしれないわね……そうまでと知っていたら、なにも巴里へなんか出かけて行くことはなかった
野萩 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)