年老としより)” の例文
病室に帰つてから、手術室の外で待つて居た病室附の年老としよりの看護婦に冷かされた。それほど烈しく私は泣き叫んだのであつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
奥様おくさんみたま何程どんなに喜んで聴いてらつしやるかと思ひましてネ——オホヽ梅子さん、又た年老としよりの愚痴話、御免遊ばせ——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それで、其の村でも彦七の家と関係のあるものか、年老としより連中でなければ彦七を記憶してゐる者はない位なのでした。
火つけ彦七 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
「ほんとに情無なさけねえよ。わしあ。くにには親兄弟おやけうだいもあるんだが、父親おやぢはもう年老としよりだつたから、んだかもれねえ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「せがれどもは、甲斐へ落ちのびましたが、年老としよりが連れでは、足手纏あしでまといになろうと思い、別れて、この走り湯権現の房へ、きょうの明け方隠れこみました」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年老としよりの頑固のしみったれの、女中頭に切り盛りさせて、今度の奥様には手もつけさせない。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いやさ、ころばぬさきつえだよ。ほんにお願いだ、気を着けておくれ。若い人と違って年老としよりのことだ、ほうり出されたらそれまでだよ。もういいかげんにして、徐々やわやわとやってもらおうじゃないか。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年老としよりの冷水でなくて冷酒にあたったのだ。
午過ぎに井上といふ年老としよりの看護婦が来てさう言つた。私は運搬寝台に乗せられた。そして長い廊下をごろ/\と引かれて行つた。私は始終眼をつぶつて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
今年のように雪の多い年も珍らしいと、長生きしている年老としよりさえ、眼をみはって戸外そとに眺め入るのだった。——ちょうど十一日から降りだした雪なのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭髪も薄く、最早胡麻塩になり、殊に歯が上下とも一本も残らず抜けて居たのが、一層彼を年老としよりに思はせた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
故郷くにに残してある一人の姉や、村の年老としよりなどのことをふとまぶたうかべたのである。どうしてであろう、悲しくもなんともない。死とは、こんなものだろうかと疑った。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戸外そとは大雪、それにお年老としよりの足もと、早目にお出かけなされて丁度よい加減ではござりませぬか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「有り難う……此間は死ぬと思うたれど……それでもまだ寿命があつたやら、まだかうして居ます……兄様にもいつも心配をかけて……」と年老としよりでも言ふ様な口調で言つて軽い咳をした。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
『——話し好きな年老としよりでな、それに、五、六年ほど、無音ぶいんのまま会わなかったのだから、離さぬのだ。済まないが、一足先きに行ってくれないか、宿をめておいて、晩方ばんがた、落ち合おう』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尾張の中村附近にも、そういうことをよく語る年老としよりが、二、三人はいた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)