差掛さしかか)” の例文
屋根船はその間にいつか両国のにぎわいぎ過ぎて川面かわもせのやや薄暗い御蔵おくら水門すいもんそと差掛さしかかっていたのである。燈火の光に代って蒼々あおあおとした夏の夜の空には半輪はんりんの月。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
谷中やなかから上野を抜けて東照宮の下へ差掛さしかかった夕暮、っと森林太郎という人の家はこの辺だナと思って、何心なにごころとなく花園町はなぞのちょう軒別けんべつ門札もんさつを見て歩くとたちまち見附けた。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
霜枯時の事ながら、月は格子にあるものを、桑名の達は宵寝と見える、寂しい新地くるわ差掛さしかかった。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やはり毎朝まいあさのようにこのあさ引立ひきたたず、しずんだ調子ちょうし横町よこちょう差掛さしかかると、おりからむこうより二人ふたり囚人しゅうじんと四にんじゅううて附添つきそうて兵卒へいそつとに、ぱったりと出会でっくわす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
駕籠かごはいま、秋元但馬守あきもとたじまのかみ練塀ねりべい沿って、はすはなけんきそった不忍池畔しのばずちはんへと差掛さしかかっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
と追分でみちが替って、木曾街道へ差掛さしかかる……左右戸毎まていえなみ軒行燈のきあんどん
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)