差向さしむ)” の例文
「お前なら差向さしむき食物の事を考えるだろうよ。大福餅の荒れ食いなんか人聞きが悪いから、金が出来ても、あれだけはすがいいぜ、八」
なんだ。強盜がうたうだ、情人いろだ。」とひさま、ドンとけて、はひつて、短銃ピストル差向さしむけて、一目ひとめるや、あ、とさけんで、若旦那わかだんなおもはず退すさつた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夫人は直ぐそれを広げて見ていたが、無言のままくるりと差向さしむけて、ある箇所を指で押え注意を与えた。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
それでは柳島のわしの別荘からは近い…就てはお目にかゝったのを幸い、差向さしむき客火鉢を二十に煙草盆を
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自分の夫たるべき男をひとられて、加之おまけに自分がんなひどい目に逢うとは、債権者が債務者から執達吏しったつり差向さしむけられたようなもので、余りに馬鹿馬鹿しい理屈である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
心の底には他の無識無謀を冷笑すると共に、ことさらにつとめてその言わざる所を言い、その好まざる所を行い、一切の言行を世論の反対に差向さしむけて意気劇烈、些少さしょうす所なく
この両三年は殊更ことさらに音信も絶えがちになっていたので、故郷の父親は大層心配して、汽船会社に聞合し、自分の乗込んだ船を知り、弟を迎いに差向さしむけたという次第が分りました。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
(ああ、ああ。)とにごった声を出して白痴ばかくだんのひょろりとした手を差向さしむけたので、婦人おんなは解いたのを渡してやると、風呂敷ふろしきひろげたような、他愛たわいのない、力のない
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今までは書林が中にはさまって居て、一切の職人と云う者は著訳者の御直参おじきさんでなく、向う河岸に居るようなものだから、れを此方の直轄にしなければならぬと云うのが差向さしむきの必要。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
(あゝ、あゝ、)とにごつたこゑして白痴あはうくだんのひよろりとした差向さしむけたので、婦人をんないたのをわたしてると、風呂敷ふろしきひろげたやうな、他愛たあいのない、ちからのない
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)