山独活やまうど)” の例文
烏賊いか椎茸しいたけ牛蒡ごぼう、凍り豆腐ぐらいを煮〆にしめにしておひらに盛るぐらいのもの。別に山独活やまうどのぬた。それに山家らしい干瓢かんぴょう味噌汁みそしる
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「赤城の山独活やまうどの漬です。お摘み下さい。新しくおけから出すと香気は高いのですが、相憎あいにくと、勝手の人間が誰も居らんもので——」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼等は皆竹籠をひじにかけている所を見ると、花か木の芽か山独活やまうどを摘みに来た娘らしかった。素戔嗚はその女たちを一人も見知って居なかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
母娘おやこはいっしょに湯につかったり、香りたかい草木の芽をあしらったひなびた午食をたべたりしたのち、まだ珍らしい山独活やまうどをみやげに屋敷へ帰った。
日本婦道記:糸車 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
長次郎が何処からか山独活やまうどと根曲り竹の筍を採って来る、晩にそれを味噌汁に作って香りの高い豊脆な味を賞美した。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
若い登山家として知られてゐるK氏が、急に用事が出来て信州へ往つたからといつて、那地あちらの深い山から折つて帰つた山独活やまうどを四五本とどけてくれた。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
澄んだ水の流れている岩の多い、渓川たにがわふちを通って、私達は歩いた。こんもりと繁った樹の間には、虎杖いたどり木苺きいちご山独活やまうどが今をさかりと生い立っていた。
蕨、山独活やまうど、もつと早ければ、たらの芽などもあるといふことであつた。秋は、到る処の松林に初茸が出た。
スケツチ (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
熊は山独活やまうどの根を大そう好物としている。初夏の頃には、川べりの湿地に出て、山独活を掘りながら戯れているから、大声で歌でもうたって行けば先方で逃げよう。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
豊原から此処までの二駅の間は、たも、ばっこ楊、落葉松の疎林に紅紫の楊蘭やなぎらんや薄黄の山独活やまうど、ななつば、蝦夷蘭の花がまだ野生のままに咲き乱れて、ただ処々に伐採跡の木の根っ株が顕れていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
それは最早五月で、都会では晩春とさへ言ふことが出来なかつたけれども、それでもそこにはまだ山桜が咲き、わらびも萠え、山独活やまうどが出て、何とも言はれない静かな春があたりに満ちわたつてゐた。
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)