実朝さねとも)” の例文
むかしは平家一門の車駕しゃがが軒なみのいらかに映えた繁昌のあとである。平家亡んで、源ノ頼朝、実朝さねともの幕府下にあったのもわずか二、三十年。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三代の実朝さねとも時代になってもまだそんなふうだったから、この時代の鎌倉の千手の前が都会風の洗練された若い公達きんだちに会って参ったのだろうし
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たとえば三代将軍実朝さねともなどは、首を長くして待っていて、九月二日には『新古今』の写本一部を携えた使者が京都から帰着しているのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
寺はわづかに堂宇を遺すのみにして墓田はことごとく人家となりたれば、旧記に見る所の実朝さねともの墓も今は尋ぬべきよすがもなし。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
金槐集きんかいしゅうをお読みのひとは知って居られるだろうが、実朝さねとものうたの中に、「すらだにも。」なる一句があった。
おおせのごとく近来和歌は一向にふる不申もうさず候。正直に申し候えば『万葉』以来、実朝さねとも以来、一向に振い不申候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
頼朝死後、頼家よりいへ実朝さねともが相次いで非命に斃れ、鎌倉幕府の命運まさに傾むかんとするが如き情勢を示した。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
僕等の日本は歴史上にもかう云ふ人物を持ち合せてゐる。征夷せいい大将軍源実朝さねともは政治家としては失敗した。しかし「金槐集きんくわいしふ」の歌人源実朝は芸術家としては立派に成功してゐる。
西行さいぎょうがなぜ出家したか、などいうことをいくら突きとめようたって、なぞは謎、そんなところから何も出てきやしない、実朝さねともがなぜ船をつくったか、そんなことはどうでもいい、右大臣であったことも
そして、頼家の跡へは弟の実朝さねともが立って家督を相続した。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
実朝さねともの歌を多く取ったのは別として、泰時やすとき重時しげとき政村まさむらなどは関東の意をんだので、蓮生坊宇都宮頼綱れんしょうぼううつのみやよりつな岳父がくふだから、信生法師しんしょうほうしは宇都宮の一族の上
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
真淵まぶち雄々おおしく強き歌を好み候えども、さてその歌を見ると存外に雄々しく強きものはすくなく、実朝さねともの歌の雄々しく強きがごときは真淵には一首も見あたらず候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
昭和十八年に「右大臣実朝さねとも」という三百枚の小説を発表したら、「右大臣ユダヤジン実朝」というふざけ切った読み方をして、太宰は実朝をユダヤ人として取り扱っている、などと何が何やら
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
実朝さねとも公の雪見の跡と申し伝えておりますが、今は人も住んではおりません」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実朝さねともの「四方よもけだものすらだにも」はやや理窟めきて聞ゆる「も」にて「老い行くたかの羽ばたきもせず」「あら鷹も君が御鳥屋みとやに」の二つはややこれに似たる者に有之候。
あきまろに答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ことに女性にょしょうの檀徒はというと、今までの旧教の経典は、とかく女人にょにんを悪魔視していたが、念仏門には、女人のためにも、差別なく、救いの扉をひらかれたものとして、鎌倉の将軍家実朝さねともの母の政子が
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実朝さねともをわすれず。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
実朝さねともの「四方よもけだものすらだにも」はやや理屈めきて聞ゆる「も」にて「老い行くたかの羽ばたきもせず」「あら鷹も君が御鳥屋みとやに」の二つはややこれに似たるものに有之これあり候。
あきまろに答ふ (新字新仮名) / 正岡子規(著)
何と、気色けしきのよくないことか。——たとえ頼朝、実朝さねともの亡い後でも、この名分は明らかにせねばならぬ。大将の嘘が、かくのごとく堂々と通っては、戦場においての武士もののふの信義は地にちてしまうわ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『万葉』の歌は材料極めて少く簡単をもって勝るもの、実朝さねとも一方にはこの『万葉』を擬し、一方にはかくのごとく破天荒はてんこうの歌をなす、その力量実に測るべからざるもの有之これあり候。また晴を祈る歌に
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
おおせごとく近来和歌は一向に振ひ不申もうさず候。正直に申し候へば万葉以来実朝さねとも以来一向に振ひ不申候。実朝といふ人は三十にも足らで、いざこれからといふ処にてあへなき最期を遂げられ誠に残念致し候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)